見送る門番
『ごちそうさまでした』
そう言ってラカルムはナイフとフォークを食器の横に置いた。
すでに日は暮れ、リドルの家の中には暖かなランプの光が灯っている。
「いえいえ……しかし突然ラカルムさんが襲いかかってきたときはどうしようかと……私も今度ばかりは本当に死ぬかと思いましたよ」
「全くだ。次からはせめて事前に試験の日程と内容を教えておいて頂きたい!」
『日程ですか……残念ですが、それは私たちにとって一番苦手なことです。時を定めるということは、星を爆発させるよりもずっと難しい。それに――』
椅子に座るラカルムは、目の前で憤慨する二人に虚無的な、しかし暖かみのある瞳を向けた。
『私の願い通り、貴方たち二人はとても強くなったのではないですか? 今は気づかなくとも、それはきっとこれから貴方たちの役に立つはずです』
「……それはその通りだ。今回の戦いでわかったが、俺は
「わ、わたしは別に強くなったとか、そういうのはないです……なんか恥ずかしいことを口走ったような気がするくらいでして……はい」
ラカルムの言葉に腕組みをして頷くヴァーサスと、赤面してもじもじと視線を逸らすリドル。ラカルムはそんな二人の様子を興味深そうに見つめている。
『それでいいのです。私が見たところ、ヴァーサスは私の試練を乗り越えたことで【時間操作耐性】【超能力耐性】【精神支配耐性】【オカルト耐性】に【初見殺し完全無効化】を手に入れました。素晴らしい成長です』
「なんと……どれもよくわからないがそんなにか! 苦労したかいがあったな!」
『そしてリドル。貴方は自らの力の範囲とその応用を掴んだはず。それになにより大事なのは、貴方が自身の願いに気づくきっかけを得たこと……』
「あわわ……は、はてさて……それについては私にも何のことやら……」
「リドルも何かを掴めたのなら素晴らしい! これからも二人で頑張ろう!」
「そ、そうですね。そうして頂けると私としても……その、嬉しいですよ。はい……」
「どうした? まだどこか悪いのか?」
リドルの言葉はどんどんと小さくなっていき、最後には聞き取ることすらできなくなってしまう。
ヴァーサスは不思議そうに俯いたリドルの顔を覗きこもうとするが、リドルは逃げるように顔をぶんぶんと振った。
「と、とにかくですね! またいらっしゃるときはもう少し穏やかな感じでお願いします! 私も毎回死にそうな目にはあいたくないので!」
「そうだな! ぜひそうして頂きたい!」
『ええ、そうします。もうその必要も無いでしょう』
ラカルムはそう言うと、二人から視線を外して席を立ち、そのまま小屋のドアを開けて星空が広がる夜の闇の中へ歩いて行く。
『それでは気をつけて。私はいつでも貴方たちを助けてあげたいけれど、私の助けは貴方たちにとっては早すぎ、もしくは遅すぎる……今日ここで貴方たちと語り合えたことは奇跡でした』
空に輝く無数の星々を見つめて呟くラカルム。
彼女の身につけたドレスが再び薄い輝きを放ち、長い金色の髪に星の輝きが宿る。
「ラカルムさん……今日はちょっと驚きましたけど、お話できて嬉しかったです。ぜひまた来てください。きっと母も喜ぶと思います」
「うむ! 次はリドルではなく、さらに成長した俺が料理をご馳走しよう! またいつでも来てくれ!」
『はい、また来ます。貴方たち二人の昨日に星を、今に光を、明日に輝きを。さようなら』
その言葉を最後に、ラカルムは空の星と闇、そして大地に溶けるようにして消えた。
「とんでもない御仁だったが、とても助けられた気がする。リドルの母上は良い友人をお持ちだ!」
「そうですね……そうかもしれません」
ラカルムを見送った二人は、頭上に広がる満天の星空を見上げて思いを馳せた。
「――リドル?」
「もう少しだけここにいてもいいですか? なんだかそんな気分です」
「俺は構わないが……この手は……」
ヴァーサスは少し顔を赤くして自分の手へと視線を移す。大きなヴァーサスの手に、リドルの小さな手が重なっていた。
「嫌ですか? 私と手を繋ぐの……」
「い、嫌ではない。ただ驚いただけだ。すまない」
「あやまらなくていいです」
リドルは少しだけヴァーサスにその身を寄せると、静かに呟く。
美しい星空からの穏やかな光が二人を照らし、いつまでも見守っていた――。
『門番VS旧支配者 ○門番 ●万祖ラカルム 決まり手:満足した』
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