答えを見つけた門番
虚空の中に無数の砕けた岩塊と光の粒子が拡散する。
いくつもの閃光の火花が闇の中に広がっては消えていく。
そしてそれら光の輝きはいつしか収まり、虚空は再び静寂と闇を取り戻した――。
「すみません……どうやら、私はここまでのようです……」
「リドル!」
『もう終わりですか?』
宇宙そのものを揺るがすラカルムの猛攻を潜り抜けたヴァーサスとリドル。
しかし、それもラカルムの影へと辿り着いたところまでが限界だった。
既に槍は輝きを失い、盾はひび割れている。
ヴァーサスは全身傷だらけとなり、力を使いすぎたリドルも倒れた。
「大丈夫か! しっかりしろ!」
「たはは……本当は最後までお供したかったのですが……面目ないです……」
「何を言う! リドルがいなければ俺はとっくに死んでいた! ここまで来れたのも全て君のおかげだ!」
力なく倒れたリドルの体を支え、必死で呼びかけるヴァーサス。
既にリドルが行使した座標操作の数は百を超えていた。
短時間にこれだけの回数の力を使ったのは、リドルも初めてのことだった。
「……ヴァーサス、私の最後のお願いを聞いてくれますか……」
「最後……だと……!?」
「さっき、やっとわかったんです……ラカルムさんの座標……」
リドルのその言葉に、ヴァーサスは悲痛な表情を浮かべた。
彼女の肩を支える手に僅かだが力が籠もり、震える。
「あと一回だけなら……ヴァーサスをその場所に飛ばせます……そこをあなたの槍で攻撃すれば、少なくともダメージは与えられるかと……」
「そうだとして……リドルはどうなる!? そんな体でまた力を使ったら……!」
「私なら大丈夫ですよ……こう見えてしぶといのが取り柄でして……」
『どうやらここまでのようですね……ならば、これから現れる脅威に屈するより前に、私が安らかな虚無の眠りへと沈めましょう……』
弱々しいながらも強い意志を瞳に宿し続けるリドル。
そんな二人にめがけ、ラカルムは先ほどまでと同じように、まるで雨のように無数の太陽を降らせた。
「く……! すまん
「もうチャンスはこれしかありません……攻撃が通ればラカルムさんも力を認めて、ヴァーサスだけでも生き残れるかも知れません……」
「駄目だ! 俺にはリドルを置いていくことはできない! 一緒に飛ぶことはできないのか!?」
迫り来る無数の太陽を鉄壁の障壁であらぬ方向へと跳ね返し続ける
しかしその障壁は先ほどまでよりも明らかに弱く、衝撃の度に盾が悲鳴を上げている。
「短い間でしたけど……最後にヴァーサスと一緒に暮らせて、楽しかったです……どうか……ご武運を……」
「くっ! 俺は……俺は……!」
リドルの瞼がゆっくりと閉じられていく。
ヴァーサスにはわかった。
リドルは問答無用でヴァーサスだけを飛ばすつもりだと。
ヴァーサスは考えた。自分にとっての勝利とはなんなのかと。
ここに門はない。
もしここに門があれば、彼は迷わず門を守ることだと答えただろう。
ならば、門がない今は?
ラカルムを倒すこと?
この窮地を生きて脱すること?
いくつか浮かぶ選択肢は、そのどれもがヴァーサスの納得を得られない。
ならば自分にとって今最も優先するべきは、命を賭けるべき目的とは。
瞬きするほどの刹那。ヴァーサスは考え、そして即断した。
「俺は――君から離れない!」
「えっ……?」
瞬間、リドルの目が驚きと困惑に見開かれた。
リドルは座標の力を行使していた。座標の力は抵抗が可能な類いのものではない。
たとえ山より大きい巨人だろうと、神だろうと、リドルが力を使えば何処へとも飛ばせる。そういう力だった。
しかし――。
「すまないリドル、だが俺はもう決めた。俺は君を守る。どんなことがあろうとも、君を最後まで守り抜く。決して君を一人にはしない。それこそが――俺の答えだ」
「ヴァーサス……」
能力を行使したにも関わらずリドルに負荷はなく、ヴァーサスは今も目の前で彼女を抱え上げていた。
それはつまり、ヴァーサスがリドルの力に抵抗したことを意味する。
リドルにとって、彼女の座標の力が抵抗されたのは初めてのことだった。
「でも、それではあなたが……!」
「そうでもない……どうやら、俺にも答えが見えたようだ」
言うと、ヴァーサスはリドルを抱きかかえて立ち上がる。
それと同時、先ほどまで輝きを失っていたヴァーサスの槍と盾が眩いばかりの光に包まれた。
「これでも彼女に届くかはわからん。だが、君を守ることはできる」
「
輝きが収まったとき、そこには姿を変えた
片手で振り回すために最適化されていた槍は長大になり、その穂には斬撃用の刃部分が伸びる。石突きにも短い刃が追加され、見たこともない文字が浮かび上がっていた。
盾はすでにヴァーサスが持つ必要すらない。
光り輝く菱形の結晶が七枚。傷ついた二人を守護するように周囲を浮遊している。
光り輝く結晶の盾は、先ほどまで自らを削り取っていた無数の太陽をこともなげに防ぎきる。その様はまるで、強固な城壁に打ち付ける小さな砂粒のようですらあった。
「こんな……こんなことって……ヴァーサス……あなたはいったい……」
驚き、呟くリドル。
ヴァーサスは槍を構えると、腕の中のリドルに向かって笑みを浮かべた。
「――俺は門番だ。君が選んだ、君の門番だ。だから、あとは俺に任せてくれ」
「たはは……なんだか……いつもよりかっこよく見えます……」
リドルは涙を浮かべて笑い、ヴァーサスの胸元を強く握った。
「ラカルム殿。貴方が何を望んでいるのかはわからん。だが、たとえどんな事があろうとも俺はリドルを守り抜く! ここからが本当の勝負だ!」
ヴァーサスは叫び、進化した槍の穂先を眼前の宇宙存在へと向けた。
だが――。
『はい。お疲れ様です。終わりです』
先ほどから二人の様子を興味深そうに見つめていたラカルム。
彼女はなるほどというふうに何度も頷くと、気の抜けた声で終結を宣言した――。
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