巨人も通さない門番
「これは驚いた! 君は随分小さいのだな!」
「僕からすれば君たちが大きいんだよー! よろしくね、ヴァーサス!」
草を掻き分けて覗き込んだ先には、小さな一軒家とそこから手を振るさらに小さな少女がいた。
「俺の名を知っているのか?」
「リドルから何回か聞いてるからね。僕はルルトア。ルルトア・アースダイヤル。この東の門を守ってる門番さ!」
ルルトアはそう言うと、一軒家の窓から家の中へと姿を消し、今度は玄関から勢いよく飛び出してくる。
金色の長い髪にズボンとベスト。濃紺のケープを纏ったその姿は、動いていなければどこか子供が遊ぶ人形のようにすら錯覚してしまう。
「俺はヴァーサス! よろしく頼む、ルルトア殿!」
「僕のことはルルでいいよ! そっちのほうが呼びやすいでしょ?」
「承知した!」
ヴァーサスは頷くと、ルルトアに向かって握手を求める。
それを見たルルトアは、差し出されたヴァーサスの人差し指の先を両手でにぎにぎと掴んで笑った。
「リドルから聞いてたとおりの暖かい人だねー!」
「少々熱すぎるところもありますが、悪い人ではないですよ。なにせ私が選んだ方ですから。それと、今日来たのは挨拶だけではなくてですね……」
「んー? なになに? おみやげでもあるの?」
「ですです。実はいつものお婆さまからまたジャガイモを沢山頂きまして……」
リドルはそう言うと、手に持った籠からジャガイモを一つ取り出して見せた。
「あー! 今年ももうそんな時期なんだね! 僕このお芋大好き!」
「いつも通り大量に頂きましたので、今年もお裾分けにきたというわけなんですよ」
「ありがとー! じゃあちょっと待って、今大きくするから! ヴァーサスも少し離れてね」
「むむっ」
ヴァーサスに離れるように促すと、ルルトアは室内へと戻っていく。
するとどうだろう。足下の草よりも小さかった一軒家がみるみるうちに大きくなり、あっという間に見慣れたサイズの家となったのだ。
「家がでかくなったぞ!?」
「素直すぎる驚き! まんまじゃないですか!」
「はい、お待たせ! もう入っていいよー!」
ルルトアの声に促され、家の中へと入る二人。
白と茶色で統一された調度品が並ぶ室内のテーブルの上に、小さいままのルルトアが二人に向かって手を振っていた。
「この家にこんな仕掛けがあったとは……」
「違うよ、これは僕の能力さ! 僕は自分以外のものならなんでも大きさを自由に変えられるんだ。だから門も小さくして箱の中に片付けてるんだよー!」
「そんなことが……! リドルの力といいあまりにも便利すぎる。どうやれば覚えられるんだ? 俺も使いたい!」
「うーん、これはねぇ……あとから覚えるのは難しいかも」
「ですねぇ……生まれついての才能みたいなものなんですよ。なんともかんとも」
「そうなのか……残念だ」
本当に残念そうな顔を浮かべるヴァーサスを尻目に、リドルは床にジャガイモの入った籠を置くと、並べられた椅子へと腰をかけ、ルルトアに尋ねる。
「最近の東門の様子はどうです? 忙しくありませんか?」
「うーん、そうだねー。僕はそうでもないかなー」
ルルトアはテーブルの上に置かれたティーカップのふちに座ると、足をブラブラさせている。
「ここよりやっぱりリドルのところでしょ。この前もなんか来てなかったー? こっちの門まで魔力が漏れてたよ?」
「たはは……実は有名どころの神様がいらっしゃいましてね……」
「ヴァルナとか言ったか。なかなか手強い相手だった。だが――」
ヴァーサスは何かを思い出すように腕を組み、瞼を閉じる。
「確かに手強い相手だったが、なにやら勝負を急いでいたな。やつの魔力は底なしだった。持久戦を挑まれていれば俺が先に倒れていたかもしれん」
「へー! 神様なんて来たんだ。それはしんどかったねー! っていうか良く勝てたね?」
「以前旅をしていた時に邪神の類いとは手合わせしたことがある。強力な魔法を操る相手だ。心乱さず闘うことが肝要だと記憶していた」
「なるほどー。リドルはほんといい人みつけてきたね」
「いやはや、あれにはさすがの私もちょーっとだけ無理かなと思いましたが、ヴァーサスさんはやってくれました! 強い! お見事! 門番!」
「フッフッフ……それほどでもないぞ……!」
調子良く身振り手振りを交えてヴァーサスを持ち上げるリドル。
ヴァーサスもまんざらでもないのか、腕組みをしたまま顔が少しにやけている。
「そっかそっかー! でもさ、やっぱり前の人がやられちゃったのは痛かったよ。前は神様なんてこれなかったのにー」
「そうですね……でもそれはもう仕方のないことです。あの方は最後まで本当に良くやってくださいましたから……」
「俺の前の門番か。興味があるな」
「では、ヴァーサスにも少しお話しましょう。実は以前――」
『ヴァアアアッハッハッハ!』
瞬間。
まるですぐ傍で大爆発が起こったかのような衝撃が巻き起こった。
一瞬で家の窓が全て割れ、綺麗に並べられた調度品が吹き飛ばされる。
真っ先に反応したヴァーサスは即座に衝撃からリドルとルルトアを守れる位置で盾を構え、二人を庇った。
「大丈夫か!?」
「な、なになになにー!?」
「あわわ、ありがとうございます。助かりました」
リドルはルルトアを掌に乗せると、そのまま家具や調度品が散乱した室内からなんとか外に出る。
「おかしい。さっきまで晴れていたのにまっくらだ」
「こんな大きな岩山、目の前にありました?」
「大きいねー! あんなに大きい山見たの、僕初めてかも!」
外に出た三人が見たもの。
それは薄暗い闇と、先ほどまで存在していなかったはずの、頂上すら見えぬ巨大な岩山――。
いや、それは岩山ではなかった。
『門はどこだぁぁぁぁ! らぐえんにづづぐてんごくの門んんんん!』
「ぎえ! 山が喋った! 山が喋りました!」
「なんと不思議な山だ! 少し登ってみるか!」
「うーん? もしかしてこれ山じゃないんじゃないかなー?」
その声に驚く三人の見上げる先。
頂上すら見えないモヤの向こうから、視界に収めきれないほどの大きさの二つの掌と、巨大な頭部が出現する。
『みいづげだああああ!』
血走った目に浮かぶ血管はその一本一本が小川のような太さ。
大きく裂けた口から覗く牙は、都の塔すら小さく見えるほどの長さ。
その掌は、街すらひとつかみで覆ってしまうほどの巨大さだった。
『おでええええがああああ! いぢばんざいじょに門をどおおるううう! ぎまっだああああ!』
三人を視認し、にいとその大きな口に笑みを浮かべ、歓喜の雄叫びを上げる目の前の岩山改め大きすぎる巨人。
その雄叫びは再びごうごうと辺りを揺らし、海からは竜巻すら発生している。
「えーっと……これ、なんとか出来ます?」
「わからん! いくらなんでもでかすぎる!」
「わー! すごーい! 僕もあれくらい大きければなー!」
############
『超巨人ギガンテス』
種族:巨人
レベル:3700
特徴:
この世界には大勢の巨人族が独自の生活圏で暮らしている。
ギガンテスはそれら巨人族の中でも最も大きい個体だ。
育ちすぎた肉体は全長三千メートル。重量は三千万トンにも達する。
ギガンテスの厄介なところはただ巨大なだけのでくの坊ではないということだ。
なんとこの巨人は世界中のありとあらゆる武術を修めている。
圧倒的な超質量から繰り出される正拳突きは、巨大な隕石をも砕くだろう。
############
その巨人が発生させた突風に吹き飛ばされそうになりながら、三人はどうしたものかと首をひねった――。
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