最終話 小野田家編

薫と詩織は隊士達の居室の後片付けをしていると隊士達の衣装ボックスから大量の手紙が出てきた。隊士それぞれが思う事が有ったのだろう、全ての手紙を読み終えるのは骨が折れた。しかし祐介はこれは隊士の真実を知る貴重な資料だと考えた。特に近藤の残した手紙には長年謎であった新選組の活動について詳細に書いてあった。


「これは本にしよう」


祐介は思った。この手紙を灰にするのは無策だ。近藤のノートパソコンにも大量の文書が残されていた。


「これほど膨大な資料は未だかつて無い」


祐介は少しずつ資料として整理するつもりだ。隊士達が去ってなお、新選組の痕跡ははっきりと残っている。チヨは刀箪笥かたなたんすを開けた。


長脇差ながわきざしは無くなっているね」


新選組では太刀が万が一折れた際、戦闘を続ける為に二尺(六十センチ)と長い脇差を帯刀していた。これは史実で、有名な話である。


「部屋を綺麗に使ってたのね」


居室にはほこり一つ無かった。隊士達が丁寧に掃除していた証拠である。


「みんな今頃どうしているのかな?」


「大騒ぎじゃない?半年近く行方不明だったんだから」


二人話をしながらテキパキと片付けを行い、終えた。


「あっこの手紙は小川さんあてだ」


詩織は他の手紙と区別し、保管しておいた。チャイムが鳴り、詩織が向かうと小川洋子が母親を付き添いにして来ていた。


「小川さん宛の永倉さんからの手紙です」


詩織が小川洋子に手渡した。


「どうして我が家にいらしたのですか?」


「永倉さんが居なくなると思ったので」


両手でしっかり手紙を手にし、小川洋子は去った。


「なんだか寂しいな」


きっと永倉と小川洋子は心が通じ合っていたのだろう。しかし永倉は現代から消える運命にあった。


「近藤さん、私の手紙とお守り、斎藤さんに渡してくれたかな?」


小野田家の夕食はまた依然と同じく静かな食卓となった。しかし隊士一同の話題は絶える事は無かった。

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