最終話 沖田編

沖田は子供達に稽古をつける事が出来ないむねを小児科部長に伝えた。


「それは残念です」


部長はがっかりしたが沖田は大丈夫と答えた。


「上手く出来る子供達も居ますし、お互いに教え合う事も出来るでしょう」


沖田にはその確信があった。子供達が一生懸命素振りをするのはこれからも自分が居なくなっても途絶えはしないだろう。沖田は今日の稽古で最後の挨拶をした。子供達は落胆したが、元気よく送り出してくれた。


「君達には基本をしっかり教えました。それを忘れずに稽古を続けてください」


沖田は子供達を前に最後の挨拶をした。沖田は急がなければならない。小野田道場へ着いた時はホッと胸を撫でおろした。元居た世界へ戻るには事が必須の条件であると思われるからだ。隊士一同は小野田家で気を失っていた。と言う事は、戻るにも同じ場所に居ないといけない。それは近藤の推察であったが、有力な考え方だと祐介も賛同した。素早く袴に着替え、その時を待つ。


「沖田さんが居なくなると店にも大打撃だね」


チヨは良く働く原田を、現代から去る用意をする沖田をみて言った。

夕餉ゆうげの場もすっかり静かになってしまった。


「局長、副長、そんなに深く考えないでくださいよ」


沖田が明るく言い放つ。


「深く考えているのはお前じゃないか?」


土方が言った。


「残った我々は粛々しゅくしゅくとその時を待つだけだ」


そう言って味噌汁を飲む。


「私は元気一杯ですよ」


近藤はそれを聞いて


「沖田の健康が我々にとっても大切なのだ」


落ち着いた口調で言った。


物騒ではあるが沖田は差料さしりょうを手放さなかった。沖田はトイレに行った。用を済ませた後、刀を腰に差してトイレを出た。すると見覚えのある景色が広がっていた。屯所の松明たいまつの下には床几しょうぎに座っている原田と永倉、斎藤、吉村が沖田を待っていた。


「やはり突然に戻るようだな」


永倉が言った。


「やあやあ皆さんお久しぶりです。沖田、只今戻りました」


沖田は爽やかに帰隊した。一番隊隊長の帰還である。

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