最終話 土方編

土方はチヨに呼び出された。その場に兼定かねさだが有った。


「これは確か売却したのでは」


「あたしが買い戻したのさ」


改めてチヨから兼定を受け取り、鞘から抜いた。間違いなく兼定である。


「チヨ殿にはかないませんな」


土方は近藤にこの件を伝えた。


「何!チヨ殿が買い戻したと!」


近藤は驚いた。そして愛用の虎徹が我が身にまた身に付ける事が出来るのが嬉しくて、大急ぎでチヨの居る居間に向かった。帰って来た近藤の右手には虎徹が有った。

もう隊士も二人しか居ないので小野田家の居間で食事をしている。


「寂しくなったねぇ」


チヨの言う通り、近藤と土方は静かに食事をしている。詩織が言った。


「今日は隊士の皆さんが好きだったトンカツですよ」


二人は美味い、美味いとカツを食べる。食べっぷりの素晴らしさに薫と詩織は喜んだ。隊士一同であったなら賑やかになったであろう。


「ほら、二人共、辛気臭くメシを食べるんじゃないよ。みんな揃って待ってるよ」


チヨが明るく言った。近藤も土方もつられて笑った。食事が終わると二人は居室に戻り、書き物に夢中であった。以前は土方も日記をつけていたが、今回は違う。土方が現代に居たあかしを残したかったのだ。


「歳、そろそろ寝よう」


二人は決して自分の差料さしりょうを手放さなかった。抱いて寝たのだ。

翌朝、二人は身なりを整え、朝餉あさげを食べに居室を出た。先に土方が出たのだが、近藤が居間に来ても土方の姿が見えなかった。どうやらタイムリープしたようだ。小野田家も一緒になってくまなく探したが土方は居なかった。


「どうやら帰ったようですね」


近藤が言った。


突然、土方は屯所の前に現れた。屯所前にはタイムリープした面々が揃っている。


「副長、お疲れ様でした」


永倉が答えた。


「そのこしらえ、兼定じゃないですか」


沖田は土方に話しかけてきた。そうだ、と答えた。


「幹部諸君!我々は戻って来た。必ずや局長もお戻りになられる。未来の夢物語は終わった。任務遂行を忘れないように」


戻って来た隊士達は床几しょうぎに座っている。沖田が言った。


「副長、面白い事が起きますよ。まあこちらの床几にお座りになられてください」


なんだ、と土方は思ったが隊士に下駄を持ってくるように伝えて土方も床几に座った。

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