最終話 原田編

原田が八百屋から戻ってこない。腹が減りましたなぁと小野田家へ帰宅するのが原田のつねなのだが、一時間、二時間経っても帰ってくる気配は無い。


「どうしたのかねぇ。私より早く帰ったはずだけど」


チヨは煙草を吸いながら言った。


「原田君らしくないな」


近藤が言う。仕事で疲れて帰るのだから真っ直ぐ家に帰るはずだ。斉藤は


「どこかで一杯やっているかもしれません」


しかしケチな原田であるから帰りに飲みに行くなど無いはずだ。


「何か事件に巻き込まれたか」


仮にも新選組の隊長である。暴力沙汰になるなら負けはしまい。


「まあもう少し待ってみましょう」


祐介の一言で一同解散になった。しかし夕食の時間でも原田は戻らなかった。


「すっかり暑くなったな」


原田はゆっくりと歩いて帰っていた。そこの角を曲がれば小野田家だ。その時、原田の視界が真っ暗になった。


「あっ」


このには覚えがある。現代にやって来るときのあの感覚だ。


「むう」


意識が戻って原田は膝立ちになった。そこは見覚えのある西本願寺の屯所の表門である。


「戻って来たか」


門を潜ると隊士達が駆け寄って来た。


「原田隊長、そのお姿は何ですか」


ジーンズにポロシャツの原田は部屋に戻り、洋服を脱ぎ、着物に着替えた。携帯に財布も有る。原田は幕末に戻ったのである。隊士達に寝床を用意させ、原田は屯所の前に立った。また隊士が返ってくるかもしれない。


「これは原田さんがタイムリープしたかもしれませんね」


祐介は携帯が通じないのを確認してそう言った。


「しかし原田君が幕末にタイムリープする保障は無いでしょう」


土方は言った。


「確かに現在より未来に行く可能性もあります。しかし文献によると原田さんが失踪した事は書かれていません」


難しい事になりましたね、と吉村が言った。


「もうこうなってしまえば我々の思い及ばぬ事である。残った我々は覚悟をしよう」


近藤の一言で全てが決まった。他の隊士も帰還に向けて準備するよりない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る