第164話スーツ

「あの沖田君がねぇ」


永倉は庭のスケッチをする斉藤に話しかけた。


「沖田先生も色恋の一つもありましょう」


「なんでも余命いくばくも無い娘だそうだ」


斉藤は時計を見た。


「永倉先生、そろそろ集合時間ですよ」


今日は隊士一同、沖田の結婚式の為に礼装を準備する日だった。費用は全て近藤が用意した。


「そう言えばスーツはまだ着ていないな」


祐介の車でスーツの専門店へ向かった。スーツがガラス越しに並んでいる。ゾロゾロと隊士達が店内へ入ると店員がやって来た。


「この方達に結婚式用のスーツを用意したいのですが」


店員総出で接客にあたる。皆身長がある上に、筋肉質だ。店員は既製服きせいふくではサイズが合わず、イージーオーダーになった。メジャーを持った店員がテキパキとサイズを計り、書類に記入していく。ネクタイとシャツも購入し、代金は近藤が払った。次は靴屋に行かねばならない。大移動だ。


「いやはやもう疲れたわ」


原田が言った。一日がかりである。帰って来ると詩織が待ち構えていた。


「ここからは洋式の食事の礼儀作法を学んでいただきます」


詩織が用紙を隊士に配って回る。


「食事は和食には出来ぬものか」


土方が聞くと


「結婚式が洋式で、食事が和食だなんてありません」


詩織はホワイトボードにマナーを書き込んでいく。隊士一同、必死に覚えなくてはならない。


「新婦の親族、友人がやって来ます。新郎側として決して沖田さんに恥をかかさないように、しっかり学びましょう」


詩織のスパルタマナー教育が始まった。授業が終わるとネクタイの締め方を祐介から教わった。もっとゆっくりと時間を掛けるものだと思ったが、事情が事情なだけに急ぐのも仕方が無かった。


「二人の時間は刻一刻と短くなる。隊士一同、全力で沖田が恥をかかないように努力しよう」


近藤は一同に述べた。

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