第161話原田、卒検を受ける

小まめに予約を取り、授業と教習を受けていたため、比較的早く卒業検定を原田は受ける事が出来た。


「検定よろしくお願いします」


ハイハイどうぞ、と年配の試験官と車に乗った。イメージトレーニング通り淡々と進み、別段ミスも無く、縦列駐車も上手く行った。


「良かったですね、ハイ合格」


卒業検定を受かった!後は学科だけだ!お祝いに斉藤を連れて角打かどうち(立ち飲み屋)で祝杯をした。斉藤はなんだ、ケチ臭いな、とは思いつつもなので不満は無い。ビールと牛筋の煮込み、揚げ出し豆腐で乾杯である。


「それにしても自動車を運転できるなど大したものですね」


「いやいや斉藤君、実を言うとだね、自動車の運転、そんなに難しくないのだ。免許さえあれば誰だって運転できるさ」


斉藤も運転免許が欲しい時はあった。天気の良い日など自動車を走らせ、ドライブなど粋だ。


「しかし隊士の中で運転免許が有れば行動範囲が広がりますぞ」


「そうそう、そこなのだ斉藤君。世界は広いのだ。運転免許はそのためには必須なのだ」


斉藤は想像するに原田の事だから給料欲しさに免許を取ろうなどと考えたのだろうと予想した。結果、予想は当たったのだが原田が運転免許を取得してから隊士の行動範囲は一変した。


「数十万も払ったんだ、元は取らねば」


グイっとビールを飲んで原田は言った。斉藤は質問してみた。


「原田先生、学科試験は大丈夫ですか」


おう、よくぞ聞いてくれた!原田は珍しく饒舌になった。


「模試も限りなく百点に近い。問題ない」


自信満々の原田である。斉藤は提案した。


「免許取得の際はドライブに連れて行ってください」


任せたまえ、と原田は啖呵を切った。


「とはいえ、自動車は便利なものであるが本音を言うと斉藤君、刀より人を簡単にあやめる事が出来るのだ。であるから俺は安全運転を貫こうと思う」


原田の意思を聞いて斉藤は安心して牛筋を口に放り込んでビールを飲んだ。


「それは何より。頼もしい事です」


斉藤は原田を褒めてタダ酒を頂戴ちょうだいするのだ。

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