第158話斉藤と油絵
ゴッホの「糸杉」と出会ってから斉藤の何かが動き出した。俺も絵を描きたい。詩織に相談した。
「あ~やっぱり「糸杉」に感化されましたね」
詩織は斉藤のどこか投げやりな性格を心配していた。絵画教室なんていくらでもあります、任せてくださいと頼りがいのある返事が返って来た。斉藤は考えた。以前近藤から教えてもらった本屋へ向かう。美術書のコーナーで絵の勉強の本を探した。直ぐに見つかって、立ち読みをした。先ずは基本的なスケッチから始めるべきと書いてある。斉藤はその本を購入した。帰宅して読み込んだ。剣と同じく地道な勉強が必要なようだ。そう言えばゴッホのスケッチもそうであった。
「市内に三件ありましたよ」
詩織がメモをくれた。一件目に電話を掛けてみた。
「はい、たんぽぽ絵画教室です」
若い女の声がした。見学の話をすると何時でも来てくださいとの事だった。
「油絵を学びたいのですが」
「もちろん、学べますよ。まずはアトリエへいらしてください」
詩織に住所を聞くと意外と近かった。徒歩で行ける範囲だ。斉藤は明日行くことにした。
翌日。斉藤はたんぽぽ絵画教室と書かれた看板の前に来た。斉藤には珍しく緊張していた。呼び鈴も無いため
「入ります」
と教室に入った。五人が絵の勉強をしていた。スケッチであろうか。小柄な女性が
「お電話くださった斉藤さんですね。さあどうぞ」
椅子に座らされた。教室では五人が机に置かれているものを描いているように思えた。
「私、油絵を学びたいのですが」
「ゴッホの「糸杉」を見たからじゃないですか?」
「何故それを知っているのです」
「なんとなく、勘です。いまゴッホ展もやっていますし」
とりあえずまずは何をするべきかを聞くと、やはり本の言うようにスケッチで正確に描く練習をしないといけないそうだ。そして油絵はお金がかかるとの事。そのあたりは大丈夫だ。今日は見学をなさって、ゆっくり決めてくださいと言われた。今は果物の静物スケッチの練習中だという。後ろから見たがどの人も上手い。斉藤は入会する旨を女性に伝えた。
「それでは正式に入会ということで。スケッチブックと鉛筆、消しゴムはサービスです。日曜日は教室はお休みなのでそれ以外でしたらいつ来て頂いても結構です」
それにしても身長ありますね、とその女性は言ったが、斎藤はその女性の感性の鋭さを後に知る事となる。
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