第157話斉藤と「糸杉」
今日は珍しく斉藤さんから誘われた。なんでもゴッホの絵を見たいと言う。何時も酒ばかり飲んでいるイメージだったけど今日は違うみたいだ。
「詩織殿、何時予定は空くであろうか」
斉藤さんは私の仕事をよく理解しているので、必ずスケジュールを確認する。
「水曜日なら空いていますよ」
「ならば頼みを聞いては貰えぬか」
ちょっと遠い所に美術館が有って、そこにゴッホの「糸杉」が鑑賞できると言うのだ。私は斉藤さんがゴッホに興味が有るなんて思ってもみなかった。
「良いですよ。私も見たいですから」
ゴッホの絵を実際に見たことは無い。たまには美術鑑賞も良いと思う。
「じゃあ水曜日、混む前に見れるように午前中に行きましょう。その後斉藤さんのおごりでお昼ご飯を」
「うむ、安いものだ」
水曜日はあっという間にやって来て、私と斉藤さんは電車に揺られていた。着くとまだ開館まで二十分もあるのに列ができている。
「これほどの混みようでは見に来た価値が有ると言うもの」
斉藤さんは乗り気である。列の最後尾に並んだ。
「斉藤さん、本当に大きいですよね」
「六尺五寸だ」
他愛も無い会話をしていると開館した。ゴッホを見たいという人ばかりなのだろう。入り口付近ではゴッホの初期のスケッチ、デッサン画が壁に並んでいた。斉藤さんはあまり関心が無さそうだ。ゴッホの生涯と歴史を追いかけつつ絵画を鑑賞できると言う工夫がなされている。斉藤さんがゴッホの「糸杉」の前に来た。やはり見たい人も多いらしく混んでいた。
「むぅ」
一息ついて「糸杉」と斉藤さんは向かい合った。大きなカンバスに大胆に糸杉が描かれている。
「なるほど」
しばらく凝視していた斉藤さんが満足したらしく、
「詩織殿、満足した。館を出よう」
駅の近くのカフェに入り、ランチを頼んだ。もちろん、斎藤さんのおごりだ。二人ともベーコンとアスパラガスのペペロンチーノのランチセットにした。
「あれほどの技量を持ってしても不遇な最期を選ばざるを得ないのは不幸であるな」
斉藤さんの感想だけじゃないんだけど、どこか他人事のような話し方をするが、今日は違った。
「不運に溺れた者ほど
「斉藤さんはそう見るんですね」
「でもこうして何十年も後になっても評価されるのは凄い事ですよ」
しかしどこか斉藤さんは心ここに有らずと言った感じで、ランチがやって来て我を取り戻したようだ。パスタの食べ方も
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