第159話同行援護従業者

「小川殿、道が狭くなります」


永倉は右腕を大きく後ろへ回す。小川洋子も合わせて後ろへ回る。


「道が広くなりました」


右腕を通常の位置に戻す。小川洋子も永倉の隣に戻る。


「永倉さん、同伴者として素晴らしい資質を持っていますね」


「褒められるのは困ります」


「永倉さんは常に視覚障碍者の行動を予見して、段差の一つも見逃さない」


「そうですか。小川殿と一緒に居るだけですが」


「永倉さん、もし良かったら同行援護従業者の資格を取ってみませんか」


「それはどのようなものです?」


視覚障碍者の外出を援助するための人間の資格だと言う。


「しかし小川殿との外出しか同行しませんが」


永倉さんにぴったりのボランティア活動があるのです、と話を続けた。

視覚障碍者の外出同行者の無償活動が有ると言うのだ。


「私でも出来るでしょうか」


「きっとできますよ」


小川洋子は乗り気である。永倉は困ってしまった。


「しかしそれがしは小川殿の為にしているのであって」


弁解するも小川洋子は実家に電話し、ボランティア団体に連絡するように伝えていた。往々にして小川洋子は強引ながある。


「詳細は追って連絡するとの事だそうです」


「参りましたな」


彼女の要求に嫌と言えない永倉であった。二人はカフェに入った。


「十一時の方向にコーヒー、十時の方向にミルクと砂糖が有ります」


「クロックポジションもバッチリじゃないですか。とてもわかりやすい」


全ては小川洋子から学んだ。クロックポジションとは時計の数字の方向を言って視覚障碍者の食事などに活用する技術だ。これも教えてもらった事だ。永倉は一度教えてもらえれば二度と忘れない人間である。剣の腕前もこの記憶力の良さにある。


「わかりました。資格はとりあえず後にして、その同行ボランティアの話は聞いてみましょう」


小川洋子は満面の笑みを浮かべ、


「永倉さんならきっとできますよ」


二人はコーヒーを飲みながら話をした。細かい調整は彼女がやってくれるそうだ。

永倉は彼女に頭が上がらない。

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