第154話沖田の稽古計画

当初は寒い頃に始まった病院での稽古だったが暖かい陽気で体も動きやすくなったか、子供達も元気よく素振りをしている。新田理恵も毎回参加している。今日は看護師だけではなく、子供達からの評判を聞いて保護者も稽古を見学に来ている。しかし沖田の稽古方針には変わりは無い。


「今日はご両親も見学にきていますが、稽古内容は変わりません。綺麗な素振りを今日も目指しましょう」


十本、声を出して素振りをさせ、身体を温める。そしてそれぞれ素振りの基礎をしっかりとさせる。しばらく沖田が見て回り、小休憩を取る。十分な水分補給と休憩を各自取れたなら稽古を再開する。時間は三十分程度である。稽古が終わり、解散となった。保護者が同伴していた子供はそれぞれ別れて帰り、残った子供達は沖田と一緒に病棟に帰る。


「みんな上手くなってきた。その調子で稽古を続けよう」


沖田は子供達を励ました。本来であるならばそろそろ型稽古に移っても良い頃だが、あくまでも健康の為であるから素振り以上はさせない。沖田は帰宅し、近藤に相談した。


「うむ、素振りだけでは子供も飽きよう。しかし当流を学ばせるのが本来の計画ではない。あくまで素振りに重点を置くべき。そうでないと途中から参加した子供はついていけなくなる」


近藤の指摘は的確であった。先に稽古を進めてしまうと沖田も忙しくなり、結局最後まで全ての子供達を見てあげれなくなってしまう。


「承知しました。ではそのように進めていきます」


沖田が試衛館に拾われた時はこれほど優しいものではなかった。あの丸太のような木刀を持たされ、素振りをさせられたものだ。あの厳しい稽古が有ったから今の沖田の剣がある。


「私は天然理心流師範としてではなく、子供達の健康の為に稽古をつけるのである」


沖田の稽古は一貫して素振りのみに絞ることになる。

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