第155話単独行

土方は一人で山を登る。近辺の山は登り切ったので少し遠征する。用意した地形図と登山ガイドを参考にして行動計画を練った。近藤に調べてもらうと東にはまだまだ登れる山が有ることを知った。登山用品店で買い物をした。湯を沸かすために最新のジュットボイルと予備の燃料缶を買い込んだ。


「ふむ、これは穴場かもしれぬ」


バス停を降りるともう人影は見えない。登山口は直ぐに見つかったが、直後の急登きゅうとうに流石に息が上がりそうになった。登山用品店の店員は


「あの山は健脚向きでも難易度が高いので気を付けてくださいね」


そう言っていたのを思い出した。登山者を容赦なく疲労させる登りだ。まだまだ登りが終わりそうにない。休憩を挟もうかと思ったがここは一気に登った方が良いと判断し、約一時間半の登りを踏破した。後は緩やかに稜線を登れば頂上である。


「この山はなかなか良い」


土方は頂上に着き、ぐるりと視線をやると遠くに街が見え、爽快である。薄曇りが日差しを弱らせている。土方は楽しみであった食事を取る事にした。ペットボトルの水(結局一番の荷物は水だった)をジェットボイルの鍋に入れ、ジュットボトルに火を着ける。湯を沸かしている間に詩織の握ってくれたおにぎりを取り出し、メインのインスタントラーメンを取り出した。あっという間に湯は沸いて、ラーメンを入れた。箸で様子を見つつ完成を待った。約三分、出来上がったラーメンを土方はすすった。


「何と美味いものがあるな」


疲労と空腹がインスタントラーメンを美味くさせている。スープを飲みつつおにぎりを頬張る。誰も登ってこない。俺の山だ、と思った。後日充足感を感じつつ下山した土方は登山用品の店員に報告をした。


「えっ!あの山を二時間で踏破?素晴らしい脚力ですね」


それならこれはどうですか、と店員が勧めてきた山があった。


槍ヶ岳である。

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