第149話沖田を想う人

今日も小児科への出稽古を終えた沖田は子供達一人一人に声を掛けた。


「随分上手くなったじゃないか」


「今日教えてもらった事を忘れないように」


一人一人に助言や誉め言葉を送る。必ず沖田がする事である。こうする事によって子供達のやる気を持続させるのだった。全員を小児病棟へ送った際、声を掛けられた。


「子供たちに剣を教えているのは貴方ですか」


沖田は別に遠慮も無いので


「はい、教えていますよ」


と答えると


「流派は何ですか」


と聞かれ、沖田は困った。答えるべきかはぐらかすべきか。


「天然理心流です」


隠す事も無かったので答えた。その時、はじめて娘だとわかった。


「私にも教えて頂けませんか」


「断る理由も無いのですが良いですよ」


快諾した。しかし沖田も二、三、聞かねばならない。点滴の針は外せるか、医師の許可を貰えるか、体力的には大丈夫か。


「これらが大丈夫であれば結構ですよ」


そう説明し、こう言った。


「お名前をお伺いしたいのですが」


「新田理恵と言います」


ではこれから医師の許可を得に行きましょう、と沖田は言った。病院では医師の判断は絶対である。彼女の病室は個室で、看護師に医師の診断をお願いし、呼び出すまで沖田は彼女から聞きたいことがあった。


「どうして私が子供達に剣を教えている事がわかったのですか」


「この窓から見えます」


なるほど、中庭が丸見えだ。


「子供達が楽しそうにしているのを見て」


「楽しそうに見えますが、いざやってみると大変ですよ。子供達は元気です」


「私にはできないでしょうか」


沖田は驚いて、


「いえいえ、ただ、子供と違って体が出来上がった人には根本的に教え方が変わるんです」


説明しようとすると医師が来て、娘と医師が話を始めた。沖田は病室を出た。しばらくして医師が出てきて沖田を部屋の前から連れ出した。


「沖田さん、貴方のお話は伺っております。どうか私のお願いを聞いては貰えませんか」


「どんな内容ですか」


「彼女は不治の病です。もって数ヶ月です。なんとか彼女に剣を教えては頂けませんか」


「承知しました。やってみましょう」


翌週。木刀を持つ彼女が居た。何時も通り沖田は指導する。


「焦る事、急ぐ事はありません。ゆっくり、ゆっくりと振ってみてください。遅すぎる位で結構です」


沖田は指導方針を変えることは無い。新しい門下生が出来たと思ったのだが彼女は違った。沖田の側に居たいのである。沖田が暴漢を杖で倒していたことは知っていた。彼女は勇気を出したのである。


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