第147話小野田チヨ

八十の声を聞くチヨは精力旺盛である。


「飯を食べないと力が出ない」


朝からどんぶりご飯をおかわりをする。肉も野菜も良く食べる。医師は健康に関しては太鼓判を押す。


仕事では店長として八百屋、魚屋の経営に目を光らせている。八百屋、魚屋の店長は小野田道場の道場生である。店は五時に閉まる。


「沖田の働きはどうだね」


魚屋の店長に聞く。


「よくやっています。少しずつ仕事を覚えさせています」


「それで良い」


チヨは昼間、一旦小野田家に帰り、家事をする。隊士の昼食の準備である。終わるとまた店に戻り、今度は算盤そろばんをはじきながら経理をこなす。従業員の健康を大切にするため五時になればピシャリと店を閉じる。


「今日は久しぶりに顔を出すかね」


道着に着替えて道場に顔を出す。道場では大先生と呼ばれている。主に詩織ら女子道場生に指導する。終われば食事を、そして風呂に入る。後片付けは薫と詩織に任せる。


背筋が伸びていて老人の様には見えないが、しかし白髪頭は本人にもどうしようもない。


「詩織、隊士に変わりは無いか」


チヨは隊士の行動に注意している。


「今日も斉藤さんが外に出掛けただけで特に変わりなかったよ」


そうかい、そう言って煙草を吸う。一日の終わりの一服である。今日は近藤達は居間で春の選抜高校野球を観ていたという。


「そうかいそうかい、大人しくしていたらそれで良いんだ」


煙草を消して道場へ向かう。午後十時である。隊士一同も稽古を終えている。チヨは一人鏡の前で素振りする。近藤が声を掛ける。


「昼間は仕事、夜は稽古ですか。お元気でなにより」


「まだまだになるわけにはいかないからね」


そうだ、近藤さん、稽古相手になってはくれないか、と聞くと近藤は快諾かいだくした。

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