第146話新選組奮戦記と永倉

近藤に図書館を教えてもらい、図書館へ来た。しかし近藤は


「決して幕末、新選組関係の書物を読まない事」


現に祐介の書斎は入室禁止であるが図書館については近藤は寛大な態度を取った。

そして禁を犯して永倉は日本史の本棚の前にいる。


「新選組奮戦記」


この作品の作者は永倉新八本人だ。永倉は脂汗が出た。背表紙なので本の内容までわからない。永倉は震える手でその本を本棚から出した。図書館にはゆっくりとソファに座ってくつろげる。永倉はページをめくろうとしたその時、


「永倉君」


近藤が目の前に立っていた。汗が永倉の身体から噴き出る。


「その本は祐介殿の書斎にある。本を閉じたまえ」


厳に注意されていた事をしてしまった永倉は近藤に合わせる顔が無い。他の隊士は近藤の話を聞いて守っている事を永倉は破ってしまったのだ。


「新選組についての書籍を見る事は法度はっとに触れる事ではない」


ソファの横に座った近藤は話を続けた。


「永倉君が今手にしている「新選組奮戦記」は永倉君の原文ではない。当時編集に当たった新聞記者や永倉君の家族によって大きく改変されている。つまり永倉君が残した本ではない。その上、新聞記者が永倉君に聞き取りをしているために正確に言うと永倉君の作ではない」


局長はこの本をよく読んでいる。永倉は驚いた。


「しかし永倉君が後世に新選組の軌跡を残そうとした貴重な書籍である。しかし永倉君、ここはこらえて読むのを止めてはくれまいか」


局長が頼むのである。


「承知しました。この本を読むのは止めておきます。ただ一つ、お聞きしたいのですが、この本には新選組の真実が書かれているのですか」


「左様。数ある新選組の文献においてこの本より新選組の核心を突いたものは無い」


「そうですか、安心しました。局長がそう言うのならば読みません」


本棚に戻し、二人は帰途に着いた。


「ところで永倉君。陽は高いがこの時間でも酒が飲める店を斉藤君から聞いている。行ってみないか」


永倉に断る理由が無かった。

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