第141話二人の花見

平日の昼間、盲目の小川洋子の願いである花見へ永倉は洋子と公園に行った。桜は満開である。こんな時間帯でも人が多く、桜の下が良いだろうと永倉は探したが、洋子は


「遠く離れても構いません」


そう言うので少し離れた芝生にシートを敷いて二人座った。


「桜の下ならもっと楽しめたでしょう」


「いえ、そうじゃないいんです。この良いお天気で暖かい日はきっと素敵な一日だと思うんです。だから桜も咲くのです」


なるほど、永倉は洋子が本当に求めていた者は桜では無い事を知った。


「光を感じなくても、日の暖かさや風で季節を感じる事はできます。いえ、むしろ私は目が見えない分、季節を強く感じる事ができます」


笑顔で洋子は言った。永倉はなんだか落ち着かない。コンビニで買ったジュースとお茶で二人は花見を楽しんだ。永倉の話に洋子は笑う。それが楽しかった。


「ところで聞いていませんでしたが」


洋子が切り出してきた。


「貴方が本物の永倉新八さんかはわかりませんが、当の本人が新選組の本を残しているのをご存じですか」


俺が新選組の事を本に残している?そんな事は初耳だ。


「いや、知りませんな」


「そうでしたか。それではの永倉新八ではないのですね」


「もちろん。幕末の時代からどうやって来るのですか」


興奮した永倉は紅茶のペットボトルを口にした。


「それはそうですね。タイムリープでもしないと来れない」


局長から厳に自分の出自しゅつじを明かす事は禁止されている。永倉は自分が探られているのに気が付いた。


「私について何か知りたいように見えますが」


「わかりますか」


「私の父が新選組が好きでしてね、新八と言う名もそこから来ているのですよ」


「永倉さんは嘘が下手ですね」


永倉のひたいに汗が浮かぶ。


「でも、本物か偽物かは私ではわかりません。でも貴方は私にとっての永倉新八さんなのですよ」


穏やかに洋子は言った。風が吹き、爽やかな空気が二人を包んだ。

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