第139話斉藤、抜擢される
雑誌の表紙を斉藤が飾っている。筋肉質の肉体と鋭い眼光の斉藤が上半身裸で写っている。雑誌のキャッチコピーはこうだ。
「今こそ野生系男子を探し出せ!」
斉藤が女性を片腕で抱き寄せているカットが有る。抱きしめているものもある。太い腕が女性を抱えている。仕事の性質を知っている詩織だが、写り込んでいる女性モデルもまんざらではない様子。
「斉藤さん、絶好調ですね」
詩織が皮肉を込めて言った。
「ただの仕事だ」
「斉藤さんは女性経験あるんですか」
「そのような事を聞いてどうする」
詩織はその撮影現場に同席した。ベッドが用意されていて、白いシーツが敷いてある。ボクサーブリーフ一枚の斉藤はこれも半裸の女性と一緒にベッドに横たわる。女性モデルの乳房は上手く映らないように肌色のテープで隠されていた。淡々と撮影は進んでいる。女性モデルは斉藤と楽しそうに話をしている。詩織は邪魔にならないように遠くでそれを見ている。撮影が終わり、素早く服を着た斉藤は編集長と担当と話をしている。話が終わったようだ。
「すまぬ、話が進んでな」
詩織は皮肉を言う。
「女性を抱けてよかったでしょう?」
「それほどでも無かったわ」
帰り道、二人で話をしながら帰った。
「で、これからどうするんです」
「金になるので仕事は引き受けようと思う」
「助広を売ったお金が有るじゃないですか」
斉藤は少し困った声を出した。
「いやな、使い込みが過ぎてかなり使ってしもうた。そろそろ身銭を稼がねばと言う頃にこの話が舞い込んだ。渡りに船よ」
そりゃいいですね、と詩織は言った。モデル映えする斉藤には良い仕事だ。汗水流して働く仕事ではない。後日、担当から読者の反響が凄いとの事だった。手紙を送って良いかと聞かれたので詩織は承諾した。届いた手紙を斉藤に渡し、モテモテで困りますなぁと斉藤をつついたが、斎藤は何時も通り
「これも仕事ゆえにな」
斉藤は縁側で酒を飲みながら手紙を読む。詩織の酌で飲むのだが手紙を読む斉藤を見る詩織の目が鋭い。
「嫉妬か?」
「そんな訳ないでしょう」
こぼれそうなくらい酒をぐい吞みに注がれてまて、まて、俺が悪いと斉藤が珍しく折れた。
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