第136話隊士と競馬 その一

斉藤が珍しく祐介に話をしている。斉藤はどちらかと言うと自分で体験し、経験を得ていくタイプだ。そんな斉藤が聞いた事は


「馬を走らせて競わせ、その着順を賭けにする」


そう、競馬である。祐介はこの男達が必ず興味を持つことを予感していた。男なら一度は興味を持つであろうものだ。


「何、競馬?比べ馬ではないのか」


永倉は二人の話を聞いていた。


「何、国が認めた賭け事だと?」


江戸時代は賭博には比較的寛容で、賭場があちこちにあった。しかし現代にあって法律に従わない賭博は禁止されている。その中でも盛んなのは競馬だと祐介が言う。


「ふむ、後学の為に是非一度行ってみたいものだ」


近藤が言った。皆が賛同した。武士は賭場に行くものではないが、現代における隊士の遊びも許されよう。近藤はノートパソコンで調べ始める。他の隊士は競馬新聞、雑誌を買い込み、勉強した。特に乗り気なのは原田で、こつこつと貯めてきた貯金を倍にできるかもしれないという単純な理由であった。しかし祐介は決まり事を決めた。一人当たり五百円までを掛け金の上限としたのだ。これは近藤も理解し、承諾した。とかく男は博打にのめり込むものだ。


隊士一同は結託した。近藤の元、行われるレースに出場する馬の血統、成績、当日の馬場、騎手の傾向。居室に新聞を広げ、詮議した。一人五百円では大した儲けにならないので、全ての隊士の掛け金をまとめ、一括で馬券を購入、勝てば掛け金を公平に分配する、というものだ。


「天気予報だと好天が続くそうで、芝生は良いでしょうね」


「しかし当日の天気で馬場などいかようにも変化するだろう」


狙うは桜花賞だ。ただ、祐介には危惧があった。迷子にならないかである。それは近藤、必ず一同で行動する旨の約束をした。隊士一同のちょっとした遠足である。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る