第134話土方、願を掛ける

朝食の後、土方が向かうところは神社であった。元の時代に戻れるよう願を掛けるのである。沖田は笑って言った。


「神社で詣でるだけで帰れるんだったら僕だって参詣しますよ」


「総司、俺は本気だ」


土方に近藤は現代科学でも未知の領域である事を理解させようと勧めたが土方は一向に自分の考えを曲げない。更に早朝より水をかぶり心身を清めると言う。


「よせ、歳。風邪を引いてしまう」


水温む季節であるがまだまだ肌寒い。土方は褌に着替え、蛇口から出る水を頭からかぶる。


「もう副長があそこまで行ったら誰も止められない」


沖田が言う。体を水で清め、参詣してから一人食事をとる。


「あのう、後片付けが二度手間になるので食事後にしていただけませんか」


詩織が言うと土方は反論した。


「自分の食器は自分で洗います」


「副長、現代の食器洗いはご存じですか」


沖田が意地悪な質問をする。


「いや、知らぬ」


それじゃあダメだ、と沖田は言った。


「願を掛けるのが悪い事だとは思いませんが、副長は少々神経質過ぎる。まるで我々が怠け者のように見えるではないか」


永倉が原田に言った。仕事へ出掛ける準備をしていた原田は答えた。


「永倉さん、まあ見てなよ、風邪ひいてバタン、キューだよ。ぶっ倒れるに違いない」


翌日、なんだか土方の様子がおかしい。フラフラと歩いている。詩織は土方のおでこに手を当てる。


「すごい熱!」


体温を測ると三十八度五分だった。すぐさま居室で休む事になった。


「ほら、言った事じゃないですか。無理しちゃダメだって」


医者を呼んだ。風邪だとの事だ。詩織は私が介抱しますと宣言した。


「風は万病の元。ゆっくり休め」


近藤は寝床の土方に声を掛けて居室から去った。隊士一同は土方の感情を理解していたのでそれ以上の詮索はしなかった。原田が蜜柑みかんと林檎をお土産に持ってきた。


「蜜柑はビタミン、林檎は西洋では毎日一個で医者知らずと言います。副長、しっかり休まれて元気を取り戻してください」


土方は朦朧とした意識の中、


「詩織殿、申し訳ない」


と精一杯の謝罪をした。


詩織が林檎を切ってくれ、土方はそれを食べた。流石に鍛えているだけ回復が早かったが、水を浴びて願を掛けると言う無茶はしなくなった。

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