第133話沖田をヘッドハンティング

チヨは沖田の台所仕事をじっと見ている。家事を覚えるのも早く、最初は覚束おぼつかなかった包丁さばきもやはり人を斬っていたためか、魚のさばき方もみるみる上達し、薫や詩織も沖田を見直すほどであった。小野田家では売れ残りを食卓に持ってくる。八百屋、魚屋を経営する小野田家では毎日新鮮な食材が豊富にあった。


「沖田さんや。金が欲しくないかね」


チヨがそう言うと


「いやぁ、多くあって困らないものですから」


「暇を持て余しているなら週に二、三、働かないかい」


「原田さんみたいに毎日働かなくて良いんですか」


「良いよ」


「局長に相談してみます」


沖田は近藤に報告した。


「という訳で局長、如何でしょうか」


「総司、お前も子供ではない。自分で決めろ」


はい、わかりました、と沖田は下がった。


斉藤など見ていると毎日楽しんでいるようだ。お金さえあれば多少は遊べる事だろう。嫌だったら辞めればいい。


「チヨ殿、局長から許可をいただきました。週二回程度なら構いません」


「よし、決まりだね」


翌日。八百屋と魚屋の合同朝礼で沖田が紹介された。


「チョンマゲだけど仲良くやってくれよ」


小野田家は多角経営をしている。原田の働いている八百屋の隣が同じく経営している魚屋である。卸専門だが一般にも小売りしている。新鮮で安いため主婦に絶大な支持を集めている。近くにスーパーが出来てもピクリとも経営はかたむかない。


「沖田君もいよいよ働く事になったか」


「原田さん、色々教えてくださいね」


万年人員不足で、忙しくなると八百屋の従業員が魚屋を手伝う事が多々あった。チヨは従業員の疲弊ひへいを気にして沖田に白羽の矢を立てた。チヨは


「まあ最初は働いている所を見学しな。わからない事は原田さんに聞きな」


沖田がアルバイト。どんな心変わりか原田は不思議でしかたなかった。

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