第131話土方、投稿にハマる

土方はその性格に反して俳句を愛する。必ず手元にメモ帳とペンを持ち歩いているし(これに関しては現代文具が優れている)春などは思いつくと道端で作句にいそしむのである。土方は祐介に密かな趣味を打ち明けると、新聞に投稿してはどうかと勧めてくれた。祐介の指示通り、郵便局に行き、ハガキを買い、自慢の俳句を書き、小野田家の住所を書いてポストに投函した。それがいけなかった。採用されたのである。佳作であった。


「俺の俳句が現代に通じる!」


土方は俳句に没頭した。隊士が縁側で思い悩んでいる土方を心配した。永倉が


「副長、何かお悩みでも?」


「いや、何でもない」


小野田家では集中できず、近くの公園のベンチで句を考える。しかし現実は厳しく、佳作を取ったものの、その後が続かない。毎週日曜の俳句コーナーを見ては落ち込む。祐介は


「それはもう、全国から何千も投稿が有りますから採用されるだけでもすごい事ですよ」


採用されない投稿に対して助言してくれた。祐介も俳句をたしなんでいた時が有ったので季語辞典を土方に譲ってくれたりした。現代俳句は土方の時代より遥かに季語を作り出していた。それを考えるのも楽しみの一つだ。


「うむ、うむ」


新しい俳句が出来そうなときは思わず言葉に出る。すかさずメモに書き込んで置いておく。しばらくして改めて俳句を見る。すると季語の使い方やいんの踏み方など色々手を加えないといけない。一作にとても時間がかかる。隊士には隠しているが一同は皆、俳句については知っていた。


「副長にしては穏やかな趣味ですね」


「俳句をする副長と言うのが今一つわからぬ」


「自分が採用された新聞を大切に保管してるそうですよ。見てみたいですね」


しかし土方は決して俳句をたしなむ事を口外しない。それを敢えて聞かない隊士達の優しさもあった。

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