第123話土方、隊士に喝を入れる

土方は道場を見回した。隊士の中に稽古をしているのは吉村が素振りをしている程度で他の隊士は自由に行動している。沖田などは楽器に興じている。


「本日深夜、隊士一同夜間特別稽古を行う。未参加は許されない」


原田が言った。


「次の日仕事なので深夜は厳しいです」


「言語無用!我々は現代において自由を満喫するために存在するものではない。きたるべき帰還の為に稽古を行うべし」


沖田がゴマをする。


「流石副長、おっしゃることが違いますね」


「おい、歳よ、無理はさせるなよ」


近藤の心配に対して参加を希望している隊士が多かった。


特別稽古当日。掛かり稽古が行われた。一本を取らねば終わらない新選組での通常の稽古である。吉村と斉藤は一早く稽古を終えた。残る隊士は泥沼の稽古になった。現代の社会に適応しつつある面々には辛いものがある。永倉が抜けた。残るは近藤、土方、原田である。原田は槍を得意とするが、剣については皆より一歩遅れる。


「まだまだ、もっと打ち込まんか」


土方の檄が飛ぶ。何とか土方から一本取れたものの、原田は肩で息をしている。


「これより定期的に特別稽古を実施する。各々稽古に励むように」


解散となった。一同風呂に入り特別稽古の話をした。吉村は


「久しぶりに真剣な稽古をした感じです」


「吉村君は良いではないか。俺は雇われの身だぞ」


「静かに!どこで聞かれているかわからないぞ」


近藤と土方が風呂へ来たので皆出る事にした。近藤が言う。


「今日の稽古を見ると大体は大丈夫のような気がするが」


「その気の緩みがいけないのです。隊の引き締めを行わないと」


土方は頑として譲らない。近藤にも反対する理由もないが、後に近所迷惑になるので深夜の稽古は禁止になり、土方の特別稽古も一夜限りになってしまった。喜んだのは原田であった。もとより忙しい身である。稽古には出ているのだし、労働にいそしみ、金を稼いだ方が現代社会では余程有意義よほどゆういぎなのである。

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