第122話ウクレレの音色

沖田が退屈で道場の縁台で庭を眺めているとポロン、ポロンと音が聞こえる。音の鳴る方を辿たどって見ると詩織が小さな楽器を抱え込むように弾いていた。


「詩織殿、それはなんです?」


「これですか?これはウクレレと言って遠い島の楽器です」


「しばらく聴かせてはもらえませんか」


沖田の提案に詩織はどうぞ、と言って弾き始めた。明るく、優しい音色は沖田の何かを刺激したのかもしれない。


「詩織殿、ウクレレを私も弾いてみたいです」


「それなら使っていないウクレレがありますからお貸ししましょう」


詩織がもう一つウクレレを持ってきた。


「チューニングしますね」


チューニングとは何ですか、と言う問いに詩織は正しい音色を出すためです、と答えた。


「じゃあ早速弾いてみましょうか」


沖田は詩織を真似して構えてみた。左手はネックを掴んで、右手は力まず。


「こうしてみてください」


詩織が右手で弦を弾く。明るくポロンと音が鳴った。沖田もやってみた。同じく明るい音色がした。


「なるほど、左手で弦を抑えて右手で弦を弾くんですね。三味線みたいなものですね」


詩織は沖田にフレットの押さえ方を何個か教えて音の出し方を教えた。初心者にありがちなフレットの扱いにくさに沖田は集中している。


「じゃあ一つフレットを抑えて、後は押さえない、という事をリズムに乗せてやってみましょう」


私と同じことをしてください、と言って教えた事をやってみせる。リズムに乗って詩織が弾く、沖田がそれに続く。ポロン、ポロンと明るい音色が二人を包んでいる。沖田も楽しそうだと詩織は思った。


「とりあえず今回教えたことを覚えて、弾いてみてください。しばらく頑張ったら簡単な曲を弾けるようになりますよ」


それから道場の縁側で沖田がウクレレを弾くのを斉藤が酒を飲みつつそれを眺めるという光景が見られるようになった。別段斉藤も気にしていない。

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