第118話日本刀

近藤が図書館でDVDを借りてきた。「日本刀」と書かれたタイトルと刀匠が写っているのみの簡素なパッケージだ。


「我々は使ですから作刀については知らないのです」


原田と斉藤を除いて隊士が集まった。沖田が言う。


「そう言えば私も知りませんでしたね」


刀匠が玉鋼たまはがねの選定をする。選定された鋼は打ち延ばされ、適切な長さに切り、他の鋼と混ぜて使う。


「ほう、寺社で使われていた古釘をつかうのですね」


茶釜や包丁なども材料にされ、作られる。映像は刀匠と弟子がリズムよく槌で打つ音が澄み切っている。


「何とも心地よい音色ですね」


吉村が言う。何度も違う鋼を挟みながら打たれていく。永遠に続くと思われていたが映像が長くなるせいか、途中で映像が切り替わる。


「やはり作刀の肝心な所は映像にしませんね」


永倉はそう言って映像に集中する。刀のていを成したところで砥ぎ師に手渡される。研ぎ師は丁寧に研ぎ始める。根気のいる作業だ。徐々に刀は輝きを放ち始める。波紋の乱れも無く、落ち着いた刀である。


「ところで現代は試し切りをするのですか」


近藤は祐介に聞いた。


「いえいえ、現代ではとてもそんな事はできません」


「それではこの刀が例え業物わざものであっても価値は有りませんな」


土方バッサリと切り捨てるように言った。


「例え本三枚鍛ほんさんまえぎたえだとしても価値はそれほどでもない」


隊士達が居た時代は大量生産の刀を除いて、有名な刀工の作は必ず試し切りが行われた。処刑された囚人の死体を利用し、胴体を寸断してその刀の価値を決めた。優れた刀だと二つ胴、つまり死体を二つ重ねた物を寸断できたという。現代において古刀、新刀が価値を付け、現代の刀工の作刀が評価されないのはその試し切りにあった。


「この刀工が優れた技術を持っているのは確かですが現代において優れた刀は必要有りますまい」


吉村はそう言った。吉村の差料さしりょうは数打ちの安物であるが優れた切れ味で、十分活躍した。当時の武士から見れば、例え美しい刀でも人を斬れねば価値は無い。重要無形文化財などと称号を得ても隊士達はその切れ味を見ない限り、価値をつけない。

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