第119話本人だろうか?
原田はまんじりとしない日々を送っている。推しの女優、吉岡里穂にそっくりな女性は今日も原田の働く八百屋にやって来る。原田は思い切って声を掛けてみた。
「あの、女優の吉岡里穂さんですよね」
そう聞くと女性は答えた。
「吉岡里穂は私の双子の妹です」
原田は驚いた。双子か。似ているわけだ。
「よく声を掛けられるんですがやっぱりわかりますか」
眼鏡姿の彼女は目立たないようにしているそうだ。今は二児の母親だそうだ。
「こちらのお野菜は安くて新鮮で。ついついお世話になっています」
「いえいえこちらこそ。末永くご利用ください」
原田はそう言った。声を掛けてみて良かった。数日後、彼女は一人、連れ添いを連れて原田の八百屋に来た。吉岡里穂が二人いる。本物が居る!
「妹が以前の話を聞くと是非会ってみたいと言うもので」
本物の吉岡里穂が居る。原田はメモにサインしてもらった。
「写真集買いました。女優活動、頑張ってください」
そう言って原田は仕事に戻った。
「今日も新鮮な野菜が揃っています。どうぞ、どうぞ」
吉岡里穂は料理が苦手らしく、姉が野菜を選んでいる。なんという
「おいおい、あの人、吉岡里穂じゃないか」
「そうです、本物ですよ」
八百屋の同僚は遠巻きに見ている。原田は一つお願いをしてみた。
「実はお願いがあるのですが」
「なんでしょう?」
「握手をお願いできませんか」
良いですよ、と彼女は快諾し、握手をしてくれた。細く、白く、華奢な手だった。
「ありがとうございます!お仕事頑張ってください」
「ありがとうございます。応援よろしくお願いします」
二人は店を去ったが原田は握手の余韻に浸ったが、そこは原田である。すぐさま八百屋の店員に戻った。幸福な一時だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます