第117話吉村の中学生生活

授業が終わり、次の授業の準備をする。次は体育だ。老いも若いも無い。吉村は着替えた。長身痩躯ちょうしんそうくだが現代で言うところの痩せ方ではない。無駄の無い筋肉だ。この吉村をからかう生徒が居る。


「おい、チョンマゲのおっさん」


生徒の一人がからかってきた。何時も吉村をからかうグループは決まっていて、その三人組は授業も真剣には受けていない。


「私に何か用ですか」


体操服に着替えた吉村がその生徒に近づいた。その時点で止めておけばいいものを吉村を蹴った。生徒全員が見ている。


「人を足蹴あしげにして何をするか」


生徒の足を掴んだまま、吉村は動かない。生徒も動けない。強烈な力で掴まれている。ゆっくり吉村は生徒の足を高く持ち上げた。小さな生徒は中に浮いた。


「もし私に喧嘩を売る際は命懸けで来てください」


ポイっと放り投げられた生徒はに床に転んだ。それで止めておけばいいものを吉村に殴りかかった。刹那、強烈な衝撃が生徒をつらぬき、生徒はうずくまった。吉村の当身あてみを受けたのだ。


「拳闘ですら手ぬるい。まだまだ子供だ」


騒ぎを聞きつけて担任がやって来た。事の顛末は他の生徒も目撃していた。もとより穏やかな気性の吉村が暴力を振ったことが信じられずにいた。


「この一件に関して言えば先に手を出したのは彼ですが最終的には私に非が有ります」


大人しく反省する吉村を見て初老の生徒が言った。


「全て見ていましたが悪いのは吉村さんでは無くて彼が悪いのです。以前から吉村さんをからかっていました」


そうだ、そうだ、と教室は騒然となった。担任は吉村と生徒を注意した。その生徒は翌日から登校しなくなった。その眼には鬼のごとく怒る吉村が目に焼き付いていた。自分を殺そうとした人間の眼だった。

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