第108話喧嘩

珍しく斉藤が絡まれた。数人の男達は酔っている。数人で一人を狙うと言うのは卑劣だ。しかし近藤から現代でも私闘を禁止されている。隙を見て逃げ出した。


「拳闘でも負ける気がしないが」


斉藤の脚力は酔っ払いの男達を煙に巻くのには十分だった。後ろを見てもどうやら追手は無いようだ。


「折角の良いがめてしもうた」


斉藤は小野田家に戻り、近藤に報告した。些細な出来事でも近藤に報告するのが新選組幹部の決まりだ。


「うむ、斎藤君、良い判断だ」


近藤はそう言った。警察沙汰にでもなったら大変である。


「しかしあの程度のやから容易たやすく倒せますが」


「それがいけないのだよ」


近藤は現代の法律を調べていた。特に喧嘩等の暴力について調べていた。なにより新選組は現代においての暴力は禁忌きんきである。傷害罪という法律を学んだ。


「とにかく先に手を出すといけないのだ」


斉藤に言って聞かせた。元居た時代では喧嘩などいくらでも有ったが法治国家である現代では厳に慎まなければいけない。


「斉藤君、一人で飲み歩きを悪く言っている訳ではないが、そう言った揉め事が有るという事も含んで行動したまえ」


「承知しました」


斉藤が去った後、一人近藤は考えていた。ネットのニュースでも暴力の報道が絶えない。どうやら現代人は暴力に関して言えば加減と言うものを知らないらしい。それは自分が暴力を受けたことが無いからだ。平気で刃物を使い、手加減を知らず、あやめるまで暴力を止めない。


「現代人の屈折した精神は爆発的な感情の発露によって凶行に及ぶ」


近藤はそう考えている。自分達が居た過去より遥かに危険である。側で聞いていた土方は


「騒ぎを起こして我々の存在を探られるのはいけませんな」


土方の言う事はもっともである。

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