第107話授業

吉村は毎晩楽しみで仕方がなかった。夜間中学の授業の内容についていけないのである。それは新しい学問の発見であった。先生の板書ばんしょを必死にノートに書き留めた。特に難しいと感じたのは数学と英語であった。


「吉村さん、授業、わかります?」


高齢の生徒に尋ねられて


「いえ、わからない事だらけです」


授業が終わればまず一番に吉村は先生に質問し、授業内容の疑問を聞いた。特に英語などはアルファベットから学習しないといけないから大変だ。吉村は日本語以外を学ぶ事がこれほど大変だとは思わなかった。小野田家の居間で詩織に教えを乞う。


「ここはこうなって‥」


「なるほど、それが公式なんですね」


「そうです。必ずテストに出ると思うので覚えておいてください」


吉村は自分の塾と剣の稽古、中学校と大忙しになった。しかし新しい学問は彼の好奇心を呼び覚まし、新鮮な発見の連続なのである。


「吉村君、疲れはしないか」


「はい、局長。楽しく学んでおります」


学校での吉村はそれでも成績は優秀な方だった。百点満点ではないにせよ、高得点を取る。同じ生徒からは


「まあ吉村さんはガチで来てるからな」


「真面目なんだよ」


若い生徒はそう話をしていた。吉村の楽しみはもう一つあった。体育だ。適度な運動は気分転換になり、夢中になった。特に好んだのはバレーボールとバスケだ。身長のある吉村には有利な場面も有った。


「吉村君、もう寝たらどうだ」


小野田家の居間で復習をしている吉村を見て近藤は言った。


「明日は試験が有るのです。その為の準備です」


「感心するが、身体を壊さないように」


近藤は吉村が心配であった。吉村は実直でどんな事にも手を抜かない。それ故に健康を害しないかと思うのだった。吉村は詩織から譲ってもらった参考書を読んでいる。



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