第86話テレビドラマ「新選組」

「アハハ!」


小野田家の居間でテレビドラマを観ていた沖田が笑った。


「隊士がこんな男ばかりじゃ任務も出来ませんね」


チヨが聞いた。


「実際の所、どうだったんだい」


「新選組のはもっと酷いものでしたよ」


浪人の集まりであった新選組は露骨に京都の人間にみ嫌われていた。


「八木さんと壬生の人達は優しかったなぁ」


昔を思い出した沖田は言った。


「でも再現にしたって酷いものだ」


沖田の役をしている俳優はなんだかナヨナヨしている。腰に差した大小の刀に姿勢が崩れている。


「見れたものじゃないですね」


蜜柑みかんを食べながらドラマに文句をつけている。


「局長が優男ですね。局長にピッタリだ」


沖田の皮肉が続く。斬り合いのシーンになった。


「子供のチャンバラじゃあるまいに‥」


テレビでは乱闘になっている。飽きたのか沖田は立ち上がった。

詩織が言う。


「最後まで観ないんですか」


「局長に我々を扱うテレビや本を読まないように禁止されていますからね」


沖田は蜜柑を手に取って居間から消えた。


「近藤さんの命令はしっかり行き届いているみたいだね」


祐介は感心した。徹底した指示系統は組織において大切だ。

今日は稽古が休みなので皆のんびりしている。例によって斉藤はまた居ない。


「斉藤さんはまた外出ですか」


「何処へ行ってるんでしょうね」


「また酒じゃないのか」


隊士が好き放題、斉藤の事を言っている。夕餉ゆうげには帰って来るだろう。


永倉から将棋を指そうと誘われ、沖田は蜜柑を食べながら指す。沖田はなかなか上手い。


「むむむ‥」


「永倉さん、その手じゃ銀のタダ取りですよ」


沖田はそう指摘して永倉は手を戻した。


「なかなか上手く行かないものですね」


沖田はそう言って蜜柑を頬張ほおばった。

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