第77話沖田の見込み

病院への出稽古は回数を重ねた。しかし沖田は素振りしか教えない。それは子供達の体力をつけ、心身両面にすこやかになってほしかったからである。小太刀こだちでも子供達にとっては立派な剣である。


声を出して子供たちは素振りをする。ある程度体力が付いてきた子供には正眼を教え、また素振りをさせる。こうして小さな子供たちに教えていると


「この子は出来る‥」


と言う子供が現れて来る。天然理心流の素振りは竹刀のとは違う。正中線を真っ直ぐ、綺麗に剣を振る子供が居た。坂崎少年である。


「坂崎君、良い素振りだ」


子供には素直に褒める事にしている。正直な子供は褒められると努力する。そうして少しずつ努力を積み重ねて剣士として成長するのである。坂崎少年に尋ねると


「毎日素振りをしています」


と静かに答えた。沖田は週に二日、病院へ行く。後は子供達に自由にさせているが、チャンバラごっこは現に強く禁止している。危険であるという事もあるが、子供なりに剣を扱っているという自覚を持ってほしかったのである。坂崎少年は白血病の治療中である。随分体力が回復したので子供達の内で話題になっていた剣の素振りを参加したくなったという。沖田は医師の許可を得て坂崎少年に小太刀を振らせる事にした。


「早く振ろうとするんじゃないよ。ゆっくり、真っ直ぐ振り上げ、打つ、これは剣の一番大切な事なんだ」


何度もこの言葉を繰り返して指導する。根気のいる事だ。近藤も


「それが良い。あくまで子供達をすこやかになるように指導をしろ」


沖田もそれに同意だ。今日も子供達は熱心に素振りを続ける。

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