第76話ミニスカート

「斉藤君、あのふしだらな洋服はなんだね」


「ミニスカートです」


今日は斉藤と永倉が街中を歩いている。永倉には刺激が強すぎるようだ。


永倉は女子の服装を見て憤慨ふんがいしている。頭の固い永倉であるが、しかし生真面目で一本気な性格は斉藤は嫌いではない。


「街でその様子なら夏の砂浜など、永倉さんは卒倒そっとうするでしょうな」


斉藤から見ると、永倉はかたくなに現代社会を拒絶しているように見える。近藤がたまには街に出なさいと近藤は金をくれるが、永倉は近所を巡り、街に出ることなく小野田家に戻ってきている事を知っている。


「永倉さんは力み過ぎている様に思えます。もっと力を抜いてみればどうです」


「斉藤君は若いから大丈夫なのだ。俺には現代の世が嫌いだ」


「永倉さん、私に案が有ります」


「なんだね斉藤君」


「街の可愛い女子に声を掛けるのです」


なにっと永倉は怒りを斉藤に向けた。


「冗談ですよ」


斉藤は発言を撤回した。この朴念仁ぼくねんじんめ、と心に思った。ならばと斉藤は案じた。


「少々早い時間ですが酒などどうですか」


「それなら良い」


早くから店を開けている店へ入った。二人でビールと肴を適当に見繕って注文した。


「永倉さん、そのようでは心身が持ちませんよ」


斉藤なりの心使いだった。しかしビールを持ってきた女給がミニスカートであった。かなり際どい。


「斉藤君、ここは一体どういう店だ!」


「見ての通り、女給を眺めて楽しむ店です」


「俺をからかっているのか!」


店の中が静まり返った。しばらくして賑やかになったのを見ると、さして周囲も気にしていなかったようだ。


「永倉さん、その生真面目きまじめさが危ういのですよ」


少しやり過ぎたかと思い、店を出た。よいりの街はこれから賑やかになるだろう。斉藤はもう一件行きましょうと永倉を誘った。


「今度はどんな店だ」


「美味い酒を出すところですよ」


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