第74話寄り道

小野田家から出た吉村は、文具店へ向かう。塾での消耗品を購入するためだ。塾生は吉村の努力で満員になった。僅かであるが資金にも余裕が出来てきた。最近、吉村は立ち寄る店がある。駄菓子屋である。


「吉村さん、いらっしゃい」


店主のおばあさんから声を掛けられる。丁髷ちょんまげ姿の吉村は目立つ。たちまち小野田家近辺で有名になった。沢山ある菓子の中から適当に選び、買う。多少多めに買っても数百円なので吉村の財布には有難い。


スルメを噛みながらぼんやりと道場で過ごす。吉村は藩校での子供と現代の子供を比べてみた。しかし現代でも子供の可愛さには変わらない。


「吉村君、また駄菓子か」


土方が話しかけてきた。


「これは副長、お一ついかがですか」


土方にスルメを勧める。


「中学校はどうなったのだ」


「はい、入学準備もできまして、春の入学を待つばかりです」


それは良かった、と土方は言った。


「なあ吉村君、君は剣道も教えるし、塾でも教える。沖田や永倉とは違って現代に上手く順応している。その意図はなんだね」


「それは難しい問いですね」


しばらく吉村は考えて行った。


「それはおそらく現代の高度な社会への好奇心でしょうな」


土方は吉村の最期を知っている。


「副長。私は毎日楽しい、言わば寄り道をしています。つかの間の寄り道です。であるならば現代を精一杯味わい尽くしたいのです」


「なるほど、現代を味わい尽くす、か。吉村君らしい発想だな」


二、三駄菓子を土方は持って行って、道場から去った。駄菓子を食べつつ、そろそろ塾の準備をしなければならない。大きく背伸びをして、準備に取り掛かった。

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