第63話白い猫
永倉は決まった時間に庭に出る。この時間帯に庭で待っていると猫がやって来る。真っ白な雌猫だ。永倉がしゃがむと体を
「詩織殿、鰹節が欲しいのだが」
「鰹節をどうするんですか」
「通って来る猫にあげようと思いましてな」
詩織は普通の鰹節は塩分が多いので猫には不向きだと言う。詩織が猫用のおやつを買ってくると言ってくれた。翌日、いつもの時間に庭に居るとまた白猫がやってきた。猫が永倉に
「お前はどこかで飼われているな。こうして散歩しておやつをねだっているのだろう」
一通り食べると猫は去って行く。去り際必ず永倉に振り返る。猫の耳に切り込みが有った。
「それは避妊手術をした猫ですね」
詩織は何でも知っている。地域猫かも知れないと言った。野良猫を避妊、去勢して地域で面倒を見る事をそう言うのだと言う。雨の日以外は必ずやって来る。白猫は永倉にお腹を触らせる。すっかり永倉に慣れて、また去り際に必ず振り返り、去って行く。小柄な猫であった。土方はそれを見ていて
「まるで恋人のようだな」
と永倉に言った。
ある日永倉はいつものように庭で白猫を待っていた。しかし来なかった。次の日も、また次の日も。現れない猫を永倉は心配した。詩織に相談すると、何か事故に遭ったか、他の猫との縄張り争いで負けてしまったのかもしれないと言った。永倉はその日も待ったが猫は来なかった。散歩がてら猫の姿を探したが居なかった。猫は永倉の前には現れなかったが、振り向いた白猫を永倉は終生忘れる事はなかった。
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