第41話斉藤、アルバイトをする

「できたらで良いんです。無理にしてくれとは言いません」


詩織が斉藤にお願いをしている。モデルの仕事なのだがモデル持ち込みのブーツなどがあるため、どうしても荷物になってしまう。何時も荷物の持ち込みで体力を消耗していた詩織は試しに斉藤に頼んでみた。


「ふむ、して報酬はいくらだ」


「五千円でどうでしょうか」


「承知した」


丁度その場を通りかかった土方が


「斉藤君が働くか。珍しいな」


「酒代ですよ」


決まった!これで荷物を持つ重労働から解放される。詩織は喜んだ。詩織は日程と荷物持ちであることを伝え、台所へ消えた。お銚子を持ってきたので斉藤は


「頼んではおらぬが」


「おごりです」


荷物持ちとは斉藤が一番嫌いそうなのにな、と土方は思った。


モデルの仕事当日、詩織は斉藤にボストンバッグを持たせてスタジオまで出発した。電車を乗り継ぎ集合場所まで来た。手ぶらで来れた詩織は嬉しかった。


「詩織さん、こんにちは」


次々とモデル、カメラマン、メイクさん、編集者の担当者が集まった。


「そのやたらとガタイの良いお兄さんは誰?」


担当さんに聞かれ、詩織は私のアシスタントです、と言っておいた。今日はスタジオではなく、街中をスイーツ巡りと言う企画なので衣装などの持ち込みが多い。斉藤に頼んで良かったと思った。大きなボストンバッグでも軽々と持っている。


「良いなあ、荷物持ちさんが居て。しんどいよう」


他のモデルはカート付きのスーツケースで移動する。車輪付きでも大変なのは変わりない。スイーツ巡りを撮影しながらモデルたちは移動する。途中、


「かなりのイケメンじゃない?背も高いし」


他のモデルたちがつついてくる。便利よ、と答えておいた。しかし担当者さんは見逃さなかった。撮影が終わり、解散となった時、雑誌の担当者が斉藤に近づき、挨拶をした。


「私詩織さんの担当をしている依田と申します。モデルのお仕事に興味はありませんか?もし良かったらお電話してください」


名刺を斉藤は受け取った。帰り道、詩織は斉藤に言った。


「すごいですよ斉藤さん、モデルのスカウトなんて滅多にありませんよ!引き受けましょう」


「金になるのか」


「人気モデルになれば稼げますよ」


左様か、と斉藤は返事をして詩織と帰途に着いた。


「おや、何時もはくたびれて帰って来るのに今日は元気だね」


チヨが言った。斉藤のおかげもあるが斉藤にモデルのチャンスが来たのが一番嬉しかった。

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