第42話土方、覚悟する

祐介の書斎にて幕府と新選組の最期を知った。これは自分が居た時代よりの記録なのであろう。土方は思った。


「ここで本を読んでも何も変わらぬ、新選組は時代に捨てられる事を」


そう知れば本に囲まれて日々を過ごすのはばかげている、と思ったのだ。未来を知って何になる。士道を貫くのが俺の本懐ほんかいではないのか。近藤は図書館に行っている。チヨに一言伝えて外に出た。靴というものに慣れず、下駄で出掛ける。秋は深くなっていて空は高い。途中、同じく散歩をしていた斉藤と出会う。


「珍しい所で会いましたな」


洋服とスニーカーの斉藤は現代に馴染んでいる。


「ところで副長。この時間から飲める店があります」


「なんだと、昼間だぞ」


「大昔のなど捨てた方が良いですぞ」


斉藤の案内で暫く歩くと暖簾のれんが見えた。立ち飲み屋である。


「ここの牛筋煮込みが美味いのです」


日本酒を二杯と牛筋煮込みとを頼み、斎藤と飲んだ。立って飲むなど経験したことが無いので驚きであったが、思ったより楽しい。斉藤は色々な店に入って楽しんでいると言う。


「この辺りも夜になれば酔客であふれます」


夜は更に賑やかになると言う。斉藤のお勧めは焼き鳥だと言う。


「そんなに美味いのか」


「私が見つけたのです。ビールも美味い物を出します」


斉藤は日がな一日道場で酒をあおっていると思っていたが斉藤なりに街に出て、現代と言う世界を味わい尽くそうとしている。


「これは副長と斉藤先生ではないですか」


吉村とばったり出会った。斉藤が言った。


「貴公何処に行っていた」


「文具店です。塾に必要な物を買ってきました」


「吉村君、塾の売り上げはどうだ?」


「それが思うようにお金にはならないのです。消耗品は買い足さないといけませんし、赤字にならないだけでしょうか」


三人揃って小野田家に戻った。詩織が珍しい顔ぶれですね、と言うと土方はスニーカーの買い方を詩織に尋ねた。斉藤も詩織に買い方を聞いたと言ったのを思い出したのだ。

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