第12話刀屋「刀泉堂」その二

次に兼定を見た。これもまた贅沢な刀装である。朱鞘にこちらは実践向きな無骨な鍔。目抜きも凝った意匠だ。分解して鑑定する。紛れもなく藤原の知識ではこれは兼定である。男二人は藤原を静かに見つめている。


「確かに私が見る限り、虎徹と兼定です。しかし私には自信が持てません。この二振りを一旦私がお預かりし、刀剣協会の会員を含めて鑑定をしたいと思います。いかがですか」


「ああそれが良いよ。納得するまで鑑定しておくれよ。この二人の持ち物だからね。良いよね?」


チヨが二人に声を掛けると二人は黙ってうなずいた。とりあえず刀泉堂が預かるという形になり、藤原は預かり証を書いた。一振りずつ風呂敷に包み、ハードカバーの刀剣箱にそれぞれ収める。すると男がもう一人やってきた。


津田助広つだすけひろだ。鑑定をお願い申す」


斉藤がそう言った。


「斉藤君、君は自分の差料を金の為に手放すのか」


そう言ったのは土方だった。


「最早この世において必要ない故」


藤原にとっては宝が舞い込むような話である。大阪新刀髄一と称される津田越前守助広つだえちぜんのかみすけひろである。預り、鑑定した。刀装は最低限の拵えで、実践向きの鍔と目抜き、柄だった。しかし刀身は美しい。これも真作であろう。予備の刀剣箱を持ってきて丁寧に収めた。


「私も長く勤めて参りましたがこれほどの業物をお目にかかれたことは有りません。全て私にお任せください」


藤原は去った。近藤は斉藤に尋ねた。


「君が差料を手放すとは思わなかったが」


「酒代ですよ。どうやらこの時代は刀より銭の時代のようです」


斉藤はそう言って道場へ消えていった。

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