第11話刀屋「刀泉堂」その一

刀泉堂店主、藤原幸隆はチヨから虎徹と兼定が有ると聞いて出張査定に小野田家にやって来た。もちろん半信半疑ではあるが、時として贋作が多く含まれる刀剣業界にあっても稀に「本物」が出てくることがある。そして何より刀剣業界では目利きとされている小野田チヨの連絡なのだ。


小野田チヨ、女性ながら小野派一刀流免許。刀剣の収集家であった祖父より知識を学び、目利きとして知られる。刀泉堂でも鑑定に迷った際に力になってもらった恩がある。車を駐車場に止めてインターホンのボタンを押した。


「やあやあ藤原さん、遠い所すまないね」


「いえいえそんなことはございません」


詩織の出すお茶を飲みつつチヨと話が弾んだ。藤原は早速話題を変えた。


「虎徹と兼定が有るとお伺いしましたが」


「そうそう、持ってくるよ」


奥に消えたチヨが二人男を連れてきた。精悍な男だ。チヨの後ろに並んで正座した。


「こっちが虎徹で、こっちが兼定」


藤原はそれぞれをおし頂き、鑑定を始めた。贅を尽くした刀装である。まず贋作は刀装から酷いものである。しかしこれは違った。鮫皮の鞘にに凝りに凝った鍔、目釘。柄も美しい。分解し、懐紙を口に挟んだ藤原は虎徹を鑑定した。虎徹は生涯それほど作刀してはいないが、文献の数倍の量が真作認定されている。無骨ゆえ、贋作を作り易いとされる。藤原はこの虎徹には刀剣としての美が有ると感じた。数珠刃が美しい。無骨に銘が切られている。藤原は真作だと判断したが、断言を避けた。

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