第10話お金♡

隊士一同が小野田家に来て二週間が経った。一同は合宿に使われる奥の間に寝る事になり、道場で食事をする。その後は道場で素振りなどをして過ごした。小野田家は小野派一刀流の道場であるが、夜間は七時から八時までは剣道道場、八時から十時までは一刀流の稽古をしている。祐介は一般人には隊士をここで合わせなかった。もちろん、誰も事の真相を知ろうとは思わないだろうが。


ある日食事後に酒を飲んでいた隊士一同にチヨが算盤を持ってやってきた。算盤そろばんを弾きながら紙に数字を書いていく。書き上げるとそれを近藤に渡した。


「これは我々の掛かる金額でしょうか」


「そうです。たったの二週間でこれだけ掛かりました」


「三‥十万?今一つ我々の貨幣価値とは相違がありますね」


チヨは答えた。


「小判で言うなら三両くらいでしょうか」


さらにチヨが算盤を弾く。


「近藤さん、今の持ち合わせは?」


財布を取り出した。


「十五両程度ですな」


「他の隊士さんもお出しください」


それぞれが財布を取り出し、合計すると四十六両あった。


「これは皆さんの生活費として頂きます。そして別途かかる沖田さんの治療費ですが非常に高価な薬を治療に使っています。そのお金も捻出してもらわないと困ります」


近藤は言った。


「では我々の差料を金に換えますか」


それが一番の解決法ですな、とチヨが言った。

土方が言った。


「局長の差料を金に換えるなど武士の魂を売ると同義だ」


「しかし歳よ。背に腹は替えられぬ。大人しく供出しよう。俺と歳の刀でしばらくは何とかなるだろう」


「お二人とも差料をお預かりします」


近藤の虎徹。土方の和泉守兼定いずみのかみかねさだ。現金に換えるならこれほど価値の有る物は無い。


「これで暫くは隊士皆様の生活は金銭的には問題無いでしょう」


チヨは最後にこう言った。


「今の世では金が全てでしてね、金が全て。武士道はもう必要ないのですよ、現代では」

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