東大入試と1が99回連続する数
難関大学の数学入試ではときたまにユニークな問題が出題される。例えば東京大学の「円周率が3.05より大きいことを証明せよ」や、京都大学の「tan1°は有理数か」などが有名だ。
「『tan1°は有理数か』ってどう答えればいいの? 『はい』か『いいえ』で答えるはさすがに違うよね」
「背理法で無理数であることを証明すればいい」
「え、そうなの?」
「仮にtan1°が有理数だと仮定すると、tan2°、tan3°、tan4°その先もすべて有理数になるはずだ。けど、tan30°の値は1/√3で無理数だから矛盾。よって、tan1°は無理数」
「へぇ、そんなんでいいんだ。円周率の方は?」
「円に内接する正多角形の周の長さを求めて、証明するのが定石だろうね」と成宮。
どちらの証明もそれほど難しくはないが受験生の正答率は意外と低かったらしい。試験の緊張も要因にあったとは思うが、問題自体が想定外で対処しきれなかった可能性もある。
「僕が個人的に面白いと思ったのは東京大学の整数問題だね。難しいけどやってみる価値はあるよ」
成宮はそう言って鞄からノートを出した。どうやらノートに問題が記されているようだ。
次の命題Pを証明したい。
命題P 次の条件(a),(b)をともに満たす自然数(1以上の整数)Aが存在する。
(a) Aは連続する3つの自然数の積である。
(b) Aを10進法で表したとき、1が連続して99回以上現れるところがある。
以下の問いに答えよ。
(1)yは自然数とする。このとき不等式
が成り立つような正の実数xの範囲を求めよ。
(2)命題Pを証明せよ。(東京大学・2013年度)
「1が99回以上連続して現れる? どんな数なの?」
「それは解けばわかるよ。安藤はこの問題見たことあるかい」
俺はかぶりを振った。(1)が誘導になっているのはわかるが……初見で解くのはかなり厳しそうだな。
「成宮くんは答え知ってるの?」
「本で解説を見たことはあるけど、ある程度の発想力がないと解くのは厳しいかな。安藤、解けそう?」
「今の時点ではなんとも言えない。まずは真ん中の式を展開してみるか」
そのまま計算してもいいけど、とりあえずx+y=Mとして、
(x+y-1)(x+y)(x+y+1)=(M-1)M(M+1)
=
(x+y
=
「次は左側の不等式だな」
式を整理して
0<3x
0<x(3
「yは自然数だから、3
「ねぇ、
「
「ああ、なるほど」
したがって、正の実数xに対してこの不等式は常に成立する。
次に(x+y-1)(x+y)(x+y+1)<
0<
「ここからどうするの?」
「えーと、2次不等式だから……
判別式、D=
D=(1-3
=(3
yは自然数なのでD>0
2次方程式の解の公式 x=(-b±√(
x=(3
ここで問題になるのはxの範囲が
x>(3
「3
0>(3
xは正の実数なので、不等式が成立するxの範囲は
x>(3
「おっ、やるね」
「でも、式見てもピンと来ないというか……これをどう使うのか全然わかんない」
愛華は俺の書いた式を見てふいに言った。これでわかったのは不等式が成立するxの範囲だけ。
「いきなり1が99回以上連続で現れるところがあるのを証明するのはハードルが高いな」
まずは1が3回連続で現れる数を考えよう。xとyに具体的な数を代入すれば何かわかると思うけど……例えばx=1000として、
「……待てよ」
Aは連続する3つの自然数の積だから3の倍数で1が3回連続だから3y=111だ。で、y=37だから、さっきと同様にx=1000とすると
(x+y-1)(x+y)(x+y+1)=1115156616
「おお! 1が3回連続してる!」
「これはただの偶然だ。不等式が成立してない」
「あ、ホントだ」
数が小さすぎたな。ただ、111=3・37は活用できそうだ。
「ていうか、(1)の式って結局使うの」
「……今から使う」
しかし根号の中の計算が面倒だ。y=37を(1)で出した式に代入して途中まで計算すると、√((3
「計算量がエグいな」
いっそのこと4y(
少なくとも、√((3
「うわっ、数式だらけ。目がチカチカしてきた」
愛華の表情が若干引きつっている。そりゃそうだろう。俺だってこんな計算した経験は皆無だ。
とにかく、x=10000なら1が3回連続して現れる数があるはずだ。少し面倒だが確認してみるか。
(x+y-1)(x+y)(x+y+1)=1011141110616
=1011200000000
「よしっ、合ってる」
「おお、すごい! これは偶然じゃないよね」
「偶然じゃない。不等式がちゃんと成立してるだろ」
問題は1が99回以上連続する数だから、xの値を相応大きくしないといけない。
「結構順調だね。99回以上だから99回連続でもいい」
成宮が俺のノートを見て言った。1が99回連続して現れる数か。一気に
1が99回連続だから
y=37037037037037037037037370370370370370370370373703703703703703703703737037037037037037037037037037
……カオスだな。
「ゲシュタルト崩壊起きそう。これ037が何個あるの?」
「33個。先頭は0を省略してるから実質32個」
「なるほど」
そして、x=
書くのが大変だから省略したが、
そして、Aは10進法で100…000111…111abc…xyz(a、b、c、x、y、zはそれぞれ1桁の非負整数)。
よって、題意を満たす自然数Aは存在する。
「……やっと終わった」
シャーペンを置き、俺は椅子の背にもたれかかった。骨の折れる問題だった。
「疲れてる和人初めて見た」
「まあ問題の難易度が高いからね。どうしても時間がかかる」
しかし難易度もそうだが作問者もすごいな。やはり東大恐るべし。
参考文献
金 重明『やじうま入試数学(ブルーバックス)』講談社 2015年
解答は本書を参考にしました。
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