0÷0に答えはあるのか?0で割ってはいけない理由
数学の四則計算(加算、減算、乗算、除算)で除算は0で割ることが禁止されている。学校でその理由を教えられることはあまりない。
知らなくても別に困ることはないが、数学の世界では0で割ることを認めると厄介なことになる。
数学研究部の部室、成宮は黒板に「1÷0=x」という式を書いた。
「0÷0の前に1÷0という式を考えてみようか。仮に答えがあるとして、xに具体的な数値が入るなら何が妥当だろう」
成宮の問いに愛華は「うーん」と唸り、数秒経って答えた。
「0……かなぁ。特に理由はないけどなんとなく」
「それじゃあ、1÷0=0としよう。割り算の逆演算は掛け算だからこれだと0・0=1になるね」
正しい例
12÷4=3⇔3・4=12
1÷0=0とすると
1÷0=0⇔0・0=1
0・0=0なので矛盾
「これ、どんな数でも矛盾するよね。xに何を入れても1と等しくなる」
「そう。xの値に関わらず矛盾が生じる。だから0で割ることはできないんだ。一般的には『不能』って呼ばれる。本題の0÷0は不能じゃないんだけど結局矛盾が生じる」
仮に答えがあるとして、それをxとする。
0÷0=x
0÷0=x⇔0・x=0
「0に何を掛けても0だから、さっきとは逆でxの値に関わらず式が成立してしまう。これは『不定』と言う」
「じゃあ、0÷0の答えは不定でいいの?」
「強いて答えを出すなら不定とするのが妥当かな。厳密な答えというか、結論は僕の知識じゃ出せない」
成宮は言って俺に視線を向けた。「お前が結論を出せ」とでも言いたいのだろうか。
「……不能でも不定でも0で割ることは定義できない。0で割ることを認めると、成宮が説明した通り矛盾が生じるし都合が悪いんだ。過去にはアメリカでゼロ除算による事故が発生してる」
俺がそう言うと、愛華が「えっ」と素っ頓狂な声を上げた。
「事故? どういうこと?」
「詳しい経緯は知らないが、1997年にアメリカ海軍のミサイル巡洋艦……要はイージス艦だ。そのイージス艦のプログラムでゼロ除算が実行されてエラーが出たんだ。主機は停止、回復するまで2時間以上海を漂流したらしい」
「何それ
実用試験中だったから大きな被害はなかったそうだが、本番だったらと思うと恐ろしいな。
「ちなみに、ゼロ除算の性質を使ったものでこんな式がある」
俺はチョークを持って黒板にその式を書いた。
x=1
(x-1)(x+1)=x-1 左辺を因数分解
x+1=1 両辺をx-1で割る
x=0 左辺の1を右辺に移項(右辺と左辺が逆でも可)
「これは一見すると正しそうに見える。実際、
x=0を代入
0=0
x=1を代入
1=1
「だが、これだと1=0ということになる。これは明らかに矛盾している」
「式自体は矛盾してなさそうだけど……なんで?」
「先に結論を言うとx=1としたのが矛盾の原因だ。4行目の式にx=1を代入すると右辺の値は0。つまり、両辺をx-1で割ったのは0で割ったことと等しい」
(x-1)(x+1)=x-1
x+1=1
(x-1)(x+1)=x-1にx=1を代入
(1-1)(1+1)=1-1
0・2=0
「0・2=0の両辺を0で割る? 左辺は0だから0÷0……これって成宮くんが言ってた不定ってやつ?」
「そうだよ。1をaに置き換えて考えると、任意の整数を0と等しくできるね」
x=a(aは整数)
(x-a)(x+a)=a(x-a) 両辺を因数分解
x+a=a 両辺をx-aで割る
x=0 左辺のaを右辺に移項
よって、a=0
「成宮くん、『任意』ってどういう意味?」
「任意は言い換えると『すべて』だよ。つまりこの式は『すべての整数は0と等しい』って意味になる。もちろん、そんなはずはない」
「これ学校で教えればいいのに。あっ、でも因数分解は高校生じゃないと難しいかな」
数学が得意な中学生なら簡単な因数分解は理解できるだろう。小学生には厳しいか。
「小、中学生にゼロ除算を教えるなら、算数の方がイメージしやすいと思うよ。例えば『徒歩で10㎞の道のりを0時間で移動したとき、時速は何㎞ですか』とか」
「それ、問題自体おかしいよね」
「ゼロ除算を文章題にしたらどんな内容であってもおかしくなるよ。『12個のりんごを0人で分けると1人あたり何個になりますか』みたいにね」
「まあ確かに……」
極限を使って考えると、aを整数としてa>0なら正の無限大、a<0なら負の無限大に発散する。
a>0のとき
a÷0=∞
a<0のとき
a÷0=-∞
結局、0で割ることを算数、数学どちらで説明しても矛盾が生じる。だから0で割ってはいけないのだ。
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