算数も意外と侮れない(開成中入試編)
有限体の話を終えると、愛華は何かを思い出したように鞄から問題集を取り出した。難関中学の算数入試だ。
「昨日、久しぶりに挑戦してみようと思って何問かやったんだけど躓いた問題があってさ、和人わかる?」
問題は開成中学の算数入試だった。東の名門だ。
A+B+C=1000である3つの整数A、B、Cがあります。B÷Aを小数第一位まで計算して、その結果の小数第一位を四捨五入したら7になりました。また、CをBで割ったら、商は2で余りは16になりました。
このとき、次の問いに答えなさい。
(1)B÷Aを計算したとき、ちょうど小数第一位で割り切れ、その結果が6.5になる場合は、A、B、Cの値はそれぞれいくつになりますか。
(2)(1)以外の場合、A、B、Cの値の組み合わせとして考えられるものをすべて求めなさい(2009年度)。
「で、愛華はどこで躓いた?」
「(2)。(1)は結構簡単だった」
愛華はそう言ってルーズリーフを見せた。
B÷A=6.5より、B=(13/2)A
C=2B+16=13A+16
A+B+C=A+(13/2)A+13A+16=1000
(41/2)A+16=1000
16を右辺に移項して両辺を2倍。
41A=1968
A=48
B=(13/2)・48=312、C=2・312+16=640
よって、A=48、B=312、C=640
計算が早ければ1分もあれば解けるな。(2)はどうか。
「最初は(1)でやった方法を6.6から7.4で確かめようと思ったんだけど、時間がかかるし多分意味ないと思うんだよね」
その考えは間違いではないだろう。算数と数学どちらでもそうだが問題を解くにあたって計算量は少ない方が当然いい。
「……先にBとCを考えた方が良さそうだな」
「Aは無視していいの?」
「Aは最後でいい。方針としては、まず(1)で出たBの値を1ずつ増やしてCの値を計算。そしてB÷Aがどこで7.4を超えるかを確かめる」
「えーと……それってどういうこと?」
「(1)で出た組み合わせはA=48、B=312、C=640だった。このときのB÷Aの値はちょうど6.5 CはBの約2倍だからBの値が大きくなるとCも比例して大きくなり、Aの値は逆に小さくなる。つまりB÷Aの値がどこかで7.4を超える」
まずはB=313としてCの値を計算すると642になる。和が955だからA=45
B÷Aの値は小数第一位まで計算して、313÷45≒6.9
B=314とするとC=644 Aの値は1000-(314+644)=42
B÷Aの値は小数第一位まで計算して、314÷42≒7.4
「さらに1増やしてB=315として計算すると、A=39だ。B÷Aの値は整数値が8になり題意を満たさない。よって、求める答えはA=45、B=313、C=642とA=42、B=314、C=644の2組」
「なるほど。てっきり方程式を立てるのかと思った」
「計算の手間を省くことを考えればこれが一番効率的だと思う」
難易度はそれほど高くはないが、(2)は初見で解くのは意外と難しいかもな。まあ、開成や灘のような名門を目指している小学生なら(1)は楽勝だろう。
愛華は俺があっさり解いたのがつまらなかったのか渋い顔をしている。それから問題集をめくって俺に見せた。
「これ解いてみて。五分以内で」
2以上150以下の整数nに対して、<n>はnの約数の中で2番目に大きい約数を表わすものとします。たとえば、6の約数は1、2、3、6なので<6>=3であり、7の約数は1、7なので<7>=1です。
(1)2以上150以下のすべての偶数に対する<n>の和、すなわち、<2>+<4>+<6>+…+<150>を求めなさい。
(2)2以上150以下のすべての3の倍数に対する<n>の和、すなわち、<3>+<6>+<9>+…+<150>を求めなさい。
(3)A/5=<A>、B/7=<B>、C/11=<C>となるような2以上150以下の整数A、B、Cはそれぞれ何個ありますか。
(4)2以上150以下の整数nに対する<n>の和、すなわち、<2>+<3>+<4>+…<150>を求めなさい。なお、2以上150以下の整数nのうち、<n>=1であるものは35個です(2012年度)。
小問4つを五分以内かよ。無茶なこと言いやがって……とりあえず(1)から順に解こう。
(1)は簡単だ。偶数なんだから<n>の値はn/2 つまり1から75までの和を求めればいい。
自然数の和の公式、(1/2)n(n+1)にn=75を代入して、(1/2)・75・76=2850
(2)は奇数と偶数に分けた方がいいな。奇数は<3>=1、<9>=3、<15>=5…<147>=49だから1から49までの奇数の和。偶数は<6>=3、<12>=6、<18>=9…<150>=75。75/3=25より、項数は25個。つまり1から25までの自然数の和の3倍。
奇数の和は1+3=4、1+3+5=9、1+3+5+7=16といったように項数の2乗になる。49はnを整数としては2n-1=49より、n=25 つまり25番目の奇数。
よって、奇数の和は
したがって、(2)の答えは625+975=1600
(3)は分子を5、7、11で割った商が、2番目に大きい約数と等しくなるA、B、Cはそれぞれ何個あるかを問うている。
A/5=<A>だと簡単な例でA=5の場合、5/5=1で<5>=1だ。さらに掘り下げて考えるとその数自身が素数の場合は1、合成数は2番目に大きい約数が素数だ。実際、25の約数は1、5、25で<25>=5だし、35も約数は1、5、7、35で<35>=7で5と7はともに素数だ。ただし、
あとは<65>=13、<85>=17、<95>=19、<115>=23、<145>=29となる。
B/7=<B>は<7>=1、<49>=7、<77>=11、<91>=13、<119>=17、<133>=19の6つが題意を満たす。C/11=<C>は<11>=1、<121>=11、<143>=13の3つ。
よって、Aは10個、Bは6個、Cは3個
ようやく(4)にたどり着いた。<n>=1はnが素数。つまり最後の補足は2以上150以下に素数は35個あることを示している。この事実はそれほど重要ではないが、35という数字は問題解く上では重要だ。
(1)から2850、(2)は奇数の和だけ抜き出して625、あとはA/5=<A>、B/7=<B>、C/11=<C>で出てきた1と素数の和(25は例外)を計算すればいい。
A/5=<A>は1、5、7、11、13、17、19、23、25、29で10個の和は150
B/7=<B>は1、7、11、13、17、19の6個で和は68
C/11=<C>は1と11と13で和は25
そして、35個の素数から重複した分(2、3、5、7、11の5個)を引くと35-5=30
よって、求める答えは2850+625+150+68+25+30=3748
すべて解くのは大人でも難しいかもしれない。計算量も多いしな。解答を愛華に見せると「すごっ」と感嘆の声をあげた。
「こんなに計算するの? 私だったら絶対無理」
「(3)と(4)は小学生には厳しいかもな。それで、タイムは?」
「……あ、測るの忘れてた」
「おい」
まあ解けたからタイムはいいか。しかしなかなか厄介な問題だった。俺は自分の解答を眺めながら、中学入試の奥深さを改めて実感した。
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