赤くねちょねちょで生ぬるい
Q キャスパの離乳食って何
A さあ…
と言って諦めるわけにもいかないので、しばし考える。
野生の猫科は、母乳からどうやって肉食に移行しているのか。
チャグは相変わらずミルクを欲しがっているが、最近は哺乳瓶の乳首部分を噛むようになってしまった。
これがお母さんキャスパなら、ブチ切れて乳首には寄らせない頃合いだろう。
つまり、自然と肉食になっているはず。
「ビャアァ」
「はいはい、待ってね」
とりあえず、精肉店で買ってきた生肉を小さく切って、目の前に出してやる。
最近めっきり活発になったチャグが、初めての食べ物を訝しげに嗅ぐ。
「美味しいよ〜、食べてみな」
後ろからそう声をかけると、チャグは青い目をこちらにむけた後、生肉に向かってざっざと砂かけの動作をして去っていった。
こいつ……。
野生の時のキャスパを想像してみる。
あの美しくも厳しそうな母キャスパは、一体どんなふうに離乳食を用意するのだろうか?
全然想像がつかない。
犬や猫はどうやって移行したのかな。それもわかんない。
自分の知識の薄さに愕然としながらも、今度はもっと肉を細かく潰してみる。
スジというスジを切って、ミンチとは行かずとも極限まで細かくして、もう一度チャグの目の前に出してみせた。
「ンヂ!」
いい加減にしろ!とばかりにチャグがそっぽを向く。
やはりダメなのか。
せっかく手に入れた、貴重なお肉なのに。
私、貧乏なのに。
星晶芋虫は確かにいい値段にはなったけど、今まで買えてなかった必需品(新しいタオルとか)をいくつか揃えたら普通になくなってしまった。
依然、貧乏。
こんなギリギリの環境で、いずれ飲まなくなるミルクのために哺乳瓶の乳首を買い替えることは、できればしたくない。
少し考えてから、ダメもとでミルクを肉に混ぜ込んでみた。
全く食欲をそそらない姿だが、これならどうだ?
慣れ親しんだ匂いがしたせいか、チャグは瞳孔を開いてそれを嗅ぐ。
今度こそ。
そう思ったものの、口をつけるまでには至らない。
「ねえ、食べてよ〜」
さっき肉を潰すのに使ったスプーンで離乳食をすくって、チャグの口元にグリグリと押し付ける。
「ヂィイ……ヂ!?」
迷惑そうに抗議の声を上げたチャグの口に、離乳食を放り込んでみた。
何がそんなに衝撃だったのか、目をまん丸にして硬直する。
そしてその直後、スプーンを子猫の割にずんぐりと太い前足で抱え込んで、猛然と食べ始めた。
あまりにも夢中で食べるため、はぐっはぐっと大袈裟な音が鳴っている。
あっという間にスプーンの離乳食を平らげた後、チャグはボウルの方の離乳食に取り掛かった。
チャグが使うには少々大きすぎるそれに上半身を突っ込んで、溺れんばかりの姿勢である。
ふと手元の木のスプーンを見ると、無惨な姿になっていた。
チャグが思い切り爪を立て、牙で噛んだせいでボロボロである。
いつの間に、こんなに力が強くなっていたんだろう。
これ、もう離乳食とかじゃなくて普通に生肉とかの方が合ってるんじゃないだろうか。
もしかすると、キャスパの生態に離乳食という概念はないのかもしれない。
なんだろう、トカゲとかネズミとか、比較的柔らかい肉を与えられてるのかな。
結局、チャグはその後ボウルの中の離乳食も全てたいらげた。
満足げに口の周りを舐めるチャグの、まだ丸い頭を撫でる。
やっぱ肉必要になってるじゃん。
言っても伝わらないような苦情を、内心で呟いた。
それから、頭の中でこれから毎日消費する肉の量とかかる費用を計算して、途方に暮れた。
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