芽生え

ライカさんがこの街に戻ってきたことで、最も得をした人間は自分かもしれない。

夜毎その日の稼ぎと貯金を数えながら、私は思いふける。

彼が次々に新規エリアを開拓してくれるおかげで、さらにはチャグが時々貴重な採取物を見つけてくれるおかげで、毎日それなりにお金を稼ぐことができている。

最近は好奇心が増してきたチャグが、ボロソファに座った私の足首に絡まっていた。

まだまだ、子猫同然だ。

重さも痛さも全く感じない、ただの温もりがそこにある。

爪の出し方を知らないチャグが、後ろ足で私の足首をけしけし蹴った。


「こら」


痛くはないが、無礼だ。

それに多少大きくなってきた頃に、この癖を残されていてはかなわない。

貯めておくお金を古びた缶にへと仕舞って、小さな黒い毛玉を持ち上げる。

先ほどミルクをいっぱい飲んだ黒猫の、柔らかいお腹が指に触れた。


「ヂィ」


「わかってるでしょ、もー」


遊びを中断させられたチャグが不満げに鳴くが、心を鬼にして膝に乗せる。

ここなら、大した悪さはできない。

退屈させてしまったようなので、指でつついて遊んでやると、素直に膝の上で手に戯れ始めた。

興奮し始めると爪が出るから、程々のところでやめさせないといけないのだが。

しかしどうして、これがなかなか人間側も楽しいのだ。


「うりうり」


「ビャァン!」


相変わらず、鳴き声が可愛さに欠ける。

嬉しさが余ってか、親指と人差し指の間に食いつかれてしまった。


「いたっ……痛い…?」


思わず離した手をまじまじと見ると、少し赤くなっている。

肌についた、ほとんど点みたいな赤い痕。


「あれぇ?」


「ヂヂヂ」


遊びたいチャグの動きを封じて、指を口の中に突っ込む。

哺乳瓶以外のものを口に入れられたチャグが、不満げに鳴いた。

指先に感じる、硬い感触。


「……もう、そんな時期か」


狩猟ギルドのカッソさんに、一通り聞いておいてよかった。

そろそろ、離乳食を用意しなければ。

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