高熱が出た時に見る夢だった説
朝起きたら、生き物が増えてた。
服を着た、二足歩行の狼だ。
この世界には、いろんな種族がいる。
だから頭が獣の人間がいたところで、そこまでの驚きはない。
それを目撃したのが、自分の家で、かつ飼っている子猫を手でじゃらしている時でなければ。
目を開けるなり視界に飛び込んできたその狼に対して、悲鳴をあげなかったのには理由がある。
喉が潰れていたのだ。
ついでに、頭もガンガンと痛む。
悲鳴をあげれずにひゅうと喉が鳴った後、思いっきり咳き込んだ。
心臓のあたりが痛む。
私が目覚めたことに気づいた銀色狼が、慌ててコップに水を入れ渡してくれた。
それを一息に飲むと、少し楽になる。
上半身を起こして彼?の方を見れば、肩までかぶっていた毛布がずり落ちていった。
肌寒いのに、少し汗をかいている。
多分、風邪だ。
「あの………あなたは」
とりあえず、聞いてみた。
喉がかすれて発声しづらいが、これだけは確認しておくべきだろう。
狼は三角の耳をぴこっと私の方に向けた後、毛むくじゃらの口を開いた。
「ライカ」
えっ、それで終わり?
少し無言で待ってみたものの、情報が追加される気配はない。
私と話しているせいで動きが止まった彼の手に焦れたのか、チャグがヂッと鳴いて手にしがみ付いた。
歯も生えていない子猫なので、噛まれても痛みはないだろうけど。
なんとなく無礼な行いな気がして、あ、と声が漏れる。
意図を汲み取ってくれたらしいライカさんが、気にするなとでも言うようにふるふると頭を横に振った。
ローテーブルに置いてあった哺乳瓶の、位置が変わっていることに気が付く。
そう言えば昨夜は、何度目覚めただろうか?
記憶がない。
「ええと」
「寝室は?」
「上の部屋ですけど、あの」
「ヂ…」
お腹がぽっこりと膨れたチャグが、あくびをする。
どうやら私が寝ている間に、ミルクをもらっていたらしい。
食べて遊んで、満足したらしいチャグが口をちゃむちゃむ慣らしながらバスケットの中で、ころりと転がる。
この呑気な様子を見ていると、狼が悪人だとは思えないのだが。
それにしたって、よくわからないことになっている。
「見ておく」
だからさっさと上で寝ろと言わんばかりに、かぶっていた毛布を畳まれてしまった。
仕方がないのでのそのそとソファから降りて、立ち上が——ろうとしてへたり込んだ。
少し動いただけで、立ちくらみがすごい。
「う、すみませ…」
不法侵入者に何を謝っているのか、自分でも正直わからない。
しかし何故かはさっぱりわからないものの、親切なのだ。
そんな相手につんけんするには、元気が足りない。
両手を床について立ち上がろうとしたところで、脇腹に骨太な腕が回った。
毛皮があるせいでたくましく見えるのかと思っていたが、実際筋肉質で太いらしい。
見知らぬ狼人間は私を片腕で抱え、そのままスタスタと歩き始めた。
クラッチバッグみたいに持たれているせいで、古びた床しか見えない。
最近生活がチャグに圧迫されていたため、手入れがずさんだ。
もう少し授乳の間隔が長くなったら、ちゃんと掃除しよう。
このままでは歩くたびに、室内で履くつっかけが汚れてしまう。
いくらこの狼人間がマッチョだとは言え、抱えて歩くには人間というのは重すぎる気がする。
しかし彼が私の重さに揺らぐ気配はなく、手すりさえ使わずに階段を登り切った。
どこの部屋に寝室があるとも言っていないのに、狼人間の足取りは迷いない。
私がいつも寝ている部屋をさっさと開けて、寝台の上にそっと横たえられてしまった。
「食欲は?」
「ない、です」
なんなんだ。
私が正直に答えると、狼人間の耳がぺたんと横に寝た。
見ず知らずの人間が弱っていることに、そんなに心を痛めないで欲しい。
そのご布団の上に毛布までかぶせられて、私は一通りの看病をされてしまった。
最近はずっとチャグと一緒にいたから、あの黒い毛玉が視界にないと落ち着かない。
結局、この日は見知らぬ銀色の狼人間に世話をされて終わった。
時折、果物を与えられたり、変な味のジュースを飲まされたりしつつ二日ほど寝て暮らし、流石に体調が回復した三日目の朝、目覚めて一階に行くとそこにはバスケットの中ですやすや寝るチャグしかいなかった。
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