いつかくる世界

 夢咲ゆめさき 想叶そうやが、何もないくうに手をかざすと、そこから先程、電気屋の店頭のテレビ画面に映し出されていた殺人犯が現れた。


 夢咲が開いていた掌を握りしめると、殺人犯の体は、まるで体内に埋め込まれた爆弾が爆発したかの様に、血飛沫ちしぶきを上げて弾け飛んだ。


 『お前、何してんだ!?』

 という声で、夢咲はようやく僕の存在に気がつく。


 『何って、見たら分かるだろう?ゴミ掃除だよ。ゴミは適切に処理しなくちゃならないんだ、放っておいたら疫病えきびょうが蔓延してしまうからね』


 『ゴミじゃない。今、お前は人間を殺したんだ』


 『まぁ、ものは言い様だ、ゴミ掃除を人殺しと表現出来ない事もない』


 『全国の【神隠し事件】の犯人はお前か?』


 『そうだ…。と言ったらどうする?』

 夢咲が感情の無い微笑を浮かべる。


 『止める。もうこれ以上はやらせない』


 『異空間で、超常の力で人をいくら殺そうが、刑法には違反しない。要するに俺は【悪】じゃないんだ。君が俺を止める必要がどこにある?』


 『僕がヒーローだからだ。お前を止める理由はそれだけで事足りる』


 『そうか…』

 奴の顔に、微かに感情が兆した。


 『なら、ここで俺を止めてみろよ。さもなければ、俺はあっという間に人類を絶滅させてしまうだろうからな。気合い入れろよ。この俺は中々に強いんだ』


 夢咲が両の手を何も無い空に翳すと、漆黒の剣が現れて、その両手に握られる。


 僕はすかさず光の剣を創造して、夢咲に向かって駆け出した。


 どれくらいの時間が経ったであろうか?


 夢咲と剣を交える中で、僕らは互いの思想を奥深くまで理解し合った。


 奴のそれは、とても美しかった。


 だけれど、それは、今の時代の、いわゆる人間の価値観で言う所の【幸せ】とはあまりにもかけ離れ過ぎている。


 僕の人生のミッションは【笑顔の溢れる素敵な世界をつくる】事だから、何としても奴を止めなければならない。


 なのに、どうやら僕はここまでの様だ。


 力を使い過ぎたのだ。


 自分の命の終わりは自分が一番よく分かるものだ。というのはどうやら本当らしい。


 僕は間もなく死ぬ。


 『わかったよ…』

 力強い声で言う夢咲のほほを涙が伝う。


 『君の世界は、まぶしいくらいに綺麗だな』

 夢咲は、自らの胸に手を当てると、そこから光る球体を取り出した。


 『この先の世界は君に任せる。ヒーローなら歯を食いしばって戦い続けろ』

 夢咲は、光の球体を僕の胸に押し付けると、光の粒となって、夜の世界に消えていった。


 僕は、強くなりたいと願いながら、ゆっくりとまぶたを閉じる。


 誰もが笑っていられる世界を夢見て。



         おわり

 

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いじめられっ子の僕は、人知れず悪と戦うヒーローだったりするのです。 GK506 @GK506

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