第17話 外の訓練
試験まで、残り3日を迎える。
「次は回避率を高める」
早朝から町の外へ出かけて、まだ肌寒い風が草原をさらさらと音を立てて揺らしてくる。寒そうにしているも、フミュウは眠たそうだ。
「君の俊敏性、つまり回避率は99%といっても過言ではない。自分から当たりに行くのは別だが、いかなる攻撃も当たらなければ問題はない」
HPがたったの1とはいえ、攻撃が当たらなければ特に問題はないのだ。ただ、この俺でさえもレベル80や90以上の相手と戦った時は多少のダメージを負ったが。相手の戦闘速度や攻撃の命中率が関与しているのだろう。
だが訓練というものは、自身が無数の傷を負ってはじめて強くなれるというものだ。つまり、レベルが上がるということ。
しかし、フミュウの場合は一度傷つけると死んでしまう。それは防御力のステータスが適用されていないということ。最重要課題にして最難関だった。
「くそ、小指を角にぶつけることすらダメージに加わると思うと何も訓練できないな」
「も、申し訳ありませんです」と肩を落とす。
「だから、少々お遊びになってしまうが――」
見晴らしのいい湖畔の前、パァン! スパァン! と無駄に響く軽い音が絶え間なく続いていることだろう。
「どうした? レベル1が振り回す草束ごとき避けられないのか?」
「ハァ……ハァ……ッ」
必死に草の剣を捌こうとするが、それを装備した腕で受け止めたり、かわしたりする。
彼女の武器である剣は見かけに似合わず大型両手剣。銀の刃には鉄をベースにしているため重く、隙ができやすいのだが、俺と出会う前から難なく扱っているらしいので、元々力はある方なのだろう。無論、軽量化と耐久性を考慮してその他の成分が剣に含まれていることは承知の上だが、それを差し引いても15の少女が好んで扱う代物ではない。
対する俺は、叩き草とも称される"ツナミ草"数十本を一本に束ね、チャンバラしているに過ぎない。金属を前に無力ではあるが、棒としての機能を果たし、しかし顔に当たっても平手打ちを喰らう程度だ。もちろん、振動しか感じない防具にしか当てない。
「レベル1なんですよね……? どうしてそんなに動けるのですか?」
「
"ニトラル剤"に"ピクリー草"を煎じたものを溶かしたポーションの効果は、脈拍が激しくなるが俺に俊敏性と動体視力を、市販の"ガラドの丸薬"は力強さを付与してくれた。しかし効果は長続きしない。時間が経てば徐々に薄まることもあれば閾値的に無効になることもある。
そうなってしまえば、この装備の威力のコントロールも困難になるだろう。昨夜の試験運転の被験者という仕事を請け負って以来、報酬金とともにこの装備を借りることができた。後、朝を迎えるまでひとり鍛錬したものだから多少は慣れたつもりだ。
「思えば確かにラティス様の見た目も――って、えっ、いつ仕入れたんですか!?」
「拾い物だ」と適当に流す。それで不思議と思いつつも納得するこいつが単純でよかったよ。
だが、本来のレベル1では俺のような動きもできないだろう。装備に振り回されて終わりだ。センスや経験含めレベルは上がるものだが、今もその数値は1のまま。境遇が違うのか、魔道具が底上げさせてくれるのか、気になりつつも未だわからないところだ。
腕の鋭い痛み。一瞬だけ舞った血は消失し、失いかけた腕の力はすぐに取り戻した。
実質、俺は斬れてもすぐに修復する。腕も同様だ。人間並みに脆いが、第2,3の剣として機能しているのだから、こちらに不利はほぼない。
にしても、俺が与えているのは草を束ねた棒一本だけだ。空気抵抗もあるし、素人の肉眼でも追えるだろう。これで苦戦してたらやばいぞ。
「振った後の隙が大きすぎるぞ。重心を前にかけすぎだ。足じゃなく腰に重心を置け」
「繰り出したらすぐに下がるか防御に移れ。腕だけじゃない、呼吸と目も見なきゃ予測はできんぞ」
「剣の向きがバラバラだ。どの向きが効率よく肉を削ぎ、骨を断てるかイメージしているか」
「力の掛け方がワンパターンだぞ。強弱をつけろ。瞬発的に動きたいなら呼吸を短く切れ」
だが、訓練と指導を続けていくうちに段々と剣と体の使い方が上達しているのが分かる。素直な性格、挑戦心に長けているのもあるが、やはり俺のもっていたセンスも多少影響しているのだろう。すぐにとはいかないが、当日までには基礎だけはある程度固められそうだ。
途端、俺の一振りを剣で対抗した。反射的な防御だろう、その力は凄まじく、風船諸共、俺の体は真っ二つになり空へと散る。斬撃の余波が
「あぁっ、ラティスさま大丈夫ですか!?」
土埃の中へと駆けつけるフミュウ。半身はたちまち腐っては血の粒子へと霧散し、もう半身は再生する。グロさ極まる姿を見せる前に、元の姿に戻った。
「困ったら何でも力で吹き飛ばすな。どいつもこいつもレベル1の俺みたいにぶっ飛ぶわけじゃないんだ」
「き、気をつけます!」
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