第11話 フミュウの夢
……。
「聞いたことはある。どこにあるかは見当もつかない”動く秘境”のことだろ。記録が残っているのに、未だ発見されていない幻想郷という
そこに行く気なのか、と尋ねると決心を固めたように、うなずいた。いつもは軽いし、焦るとドキマギした返事しかこないのに、今回は違った。
「絵本で読んだことがあって、小さいころから夢見てたことなんです。そのためには、この世界のいろんな新種や新天地を発見してきている冒険者にならなければ、と思ったんです」
「……苦労しただろう」とつぶやくように訊くと、「あはは、まぁ」と苦笑した。
「みんなできるわけないって、反対されたり、笑われたりしちゃいました。ドラガンバルド家でも、私だけレベルが上がらなくて一番弱かったですし」
向いてない、とさんざん言われてきたのだろう。確かに冒険者を目指しても15歳でレベル4はさすがに低すぎる。
「……だけど」と彼女は続ける。
「私はレベルが低くたって、絶対に世界一の冒険者になるって決めたんです。すごい冒険者になって、”アウラの星”にいって、”奇跡の星屑”を拾うんです!」
強い目で俺に言う。こいつ、こんな顔もするんだな。
「……なんちゃって」とふにゃり力が抜けたように、気恥ずかしそうに頭をかいてにへらと笑う。
「いや、伝わったよ」とまた素っ気なく返した。意外そうな顔をわかりやすく出したフミュウに言う。
「夢はどれも馬鹿らしいものだろ。それを叶えられるやつは、馬鹿みたいに真剣に突っ走っていけるやつだけだ。……君の夢が叶うか断言はできないが、叶ってほしいと俺は思う」
彼女の蒼穹の瞳を射抜かんばかりに言い切ると、彼女はどうしてか燃えたように顔を真っ赤にした。なんだ、なにか変なことでも言ったか?
紛らわすように、なにか話題を探すかの如く、おろおろ動き始めると、
「あ、明日の装備の準備しておかないと。そうです、スタートダッシュは勝利のダッシュです!」
わけのわからないことを言いながら、フミュウはクローゼットの方へ向かった。
――ガツン、と痛そうな音が部屋に響く。
「あいったっ!」
足元を抑え、床に倒れたフミュウ。どうやらおっちょこちょいにもクローゼットの角に足の小指を強くぶつけてしまったようだ。
やけにあっさりした叫び――まさかそれが断末魔になろうとは。
というのも、彼女の頭上に唐突に表れたステータスウィンドウがご丁寧に、
《HP0:生命維持の停止》
と記していたからだ。……HP、0?
「……は?」
きゅう、と小動物が力尽きたようなか細い声を最後に、フミュウは一切動かなくなった。呼吸してない。トントンと肩をたたいても反応しない。
え……死んでる……。
「え、おい、ちょ、待て、嘘だろ」
はぁあああああ!!?
勝利のダッシュする前に死に向かってダッシュしやがったぞこいつ! さっきの決意が何気に盛大なフラグだと予測はしてたが、回収するの早すぎるだろうが!
突如、フミュウの体がポゥ、と光を灯しはじめ、黄金色の粒子を含んだオーラを上昇する炎のようにゆらゆらと放出しだした。強いエネルギーを感じたと同時、それが命を再び鼓動させるための力が内部で働いているということだと察する。蘇生種の効果が発動したのだ。
やがてオーラは消え、すぅ、と呼吸が聞こえだした。
「う……んん……あ、あれ、わたし……」
「死んだぞ。恥ずかしさ極まりない方法でな」
それでやっと思い出したのだろう、「わたし、やっちゃった……?」と再び痛み出したのであろう小指にそっと手を当てつつ、寝転がったまま顔を青ざめた。
「角に小指ぶつけて死ぬ人なんてはじめて見たぞ」
「それだけ痛かったんです……」
「それよりどうするんだ、せっかくの蘇生種をもう使っちゃったぞ」
「す、すみませんです……」
「次ヘタすれば今度こそ死ぬぞ」
いや、ほんと、勘弁してくれ。こんなことで死ぬんじゃ命がいくつあっても足りない。
「あの」
「なんだ」
「非常に申し上げにくいですし、申し訳ないのですが…………ベッドまで運んでくれませんか。瀕死なんです」
「いつも
俺の発言にフミュウはごもっともだとうなずくかわり、しゅんと肩を縮めた。
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