1章 冒険者への道:試験対策期間編

第8話 100年後の町

 イルドア王国東部、東部最大都市部・リーティアの町。

 俺が来たときは家畜が群がるちっぽけな石町だったんだが、100年も経てば変わるのは当然か。


 ぜいたくに広々とした六角畳の赤レンガ道に、二つ折りの屋根が連なるレンガ街。石造りがメインだったというのに、素材だけでなくその建築様式から目を見張るものがあった。学がない俺から見ればそれ以外は特にこれといった特徴もない、栄えた都市だ。そんな巨大な町を囲むように夕焼けの空をさえぎる、ドーム状に突き出た8対の巨竜のアバラ骨の塔を除けば、の話だが。巨大極まりない竜の死骸の中に行政区画を建てたお偉方の感性を疑うよ。


 だが、陰気臭い様子は微塵もなく、誰しもが皆明るく、生き生きとしている。靴から羽織りものまで、凝った装飾や彩りに秀でた服飾を着ているあたり、時代は進んだと思わせる。


「真昼間からにぎやかなものだな」と皮肉を込める。人気も多く、町のいたるところに彩あふれる花が飾られ、軒の窓から向かいの窓へ小さな旗の数々がひもを通して架かっている。


「ブレイズ勇士団が今朝がたに紅蓮竜クリムゾル・フレジアの討伐から帰還されたみたいで、それでみんなお祝いしているのだと思います」

 ハーフアップに結わえたオレンジブロンド・セミロングと年の割に軽装備越しの豊満な胸を揺らし、案内していたフミュウはこちらを振り向く。このあどけなさでレベル99(俺のだが)とは誰も考え付かないだろう。


「名をあげたのは最近か?」

「はい、二年前に結成して一気に功績を残し続けているすごい人たちです。いまでは英雄とまで評されているほどですよ」

 なるほどな。どれだけの強さかステータスチェックしたいものだ。

 周囲が一段とざわついた。俺たちの話を聞いていたのではなく、通り過ぎた会話を聞くにご一行が近くまで来たようだ。


「あっ、ほら、あれです! せっかくですしいきましょっ!」

「おい待てっ、……ったく」

 野次馬の一人になるのはごめんだが、HP1の最強きりふだから目を離すわけにもいかない。後についていくことにした。


「みんな急いで! 勇士団がいっちゃうわよ!」

「ブレイズ様ーっ! こっち見てぇーっ」

「おお、あれが英雄の一団か」

「どいつも強そうだ。おいみろよ、あのふたりかわいくないか?」

 黄色い歓声に感心した評価の声。人ごみの中に紛れて俺は勇士団を目にした。

 道の両脇に人だかり。その間を堂々とブレイズ勇士団が手を振りながら歩いている。


 筆頭を歩いている容姿端麗の気がよさそうな金髪の好青年がブレイズという男だろう。そばを歩くふたりの華やかな少女は魔導士と拳闘士か。その後ろにいる男二人と女ひとりは見たところそれぞれ銃士、弓士、そして召喚士だとみる。若者ばかりだが、確かにいくつもの修羅場を乗り越えてきた面構えをしている。


「はわ~、なんだかオーラが違いますね」

「それは先入観だろう」

「ラティス様、いつか私もあんなかっこよくなれますでしょうか」

「さぁな。……?」

 華やかな一団の影に、存在をかき消しているように、最後尾をついていく大きな荷物を背負った小さなフード姿に目が行く。行商人を彷彿とさせる姿。フードからはローズのように赤い髪が垂れており、そこから月光のごとき金の瞳が覗いていたが、あの少女もパーティの一員だろうか。

 ちらりと、黄金色の瞳がこちらを見た気がした。


「そういや、精霊からもらった蘇生種はもう飲んだか」

「はい! ばっちりです!」

 これで万一死んだとしても復活はできる。ただし効能は一度だけだ。どちらにしろ慎重にならなければ。

「つまらんことでダメージを受けないようにな」

「はい! りょうかいであります!」

 びしっ、と敬礼をし、にへへと間抜けに笑う。本当に大丈夫か。


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